月のシズク
mamico



 雪の降る街

東京に雪が降った。

空気が乾燥して、気温の低い東京では、雪は小さな粉になる。
肌を刺すようなつめたい空気の中、コートに白いものが落ちてきたときは
ゴミや塵かと見まごうほどだった。それでも、東京の街に雪が降るのは、
ちょっとした非現実感があり、心愉しいものである。

私が生まれ育った北陸では、冬は心寂しいものだった。
来る日も来る日も曇天で、低い雪雲に抑圧された街は、暗い灰色だった。
水気をたっぷりと吸った分厚い雪が、隙間という隙間を埋め尽くした。
あの街に降る雪は、圧倒的な現実だった。逃げ場のない、つめたい現実。

ルクセンブルクにいる妹から写真が届いた。
彼女が住む部屋の窓辺を切り取った写真。ポプリ、キャンドル、ガラスの壜。
それに、額に入った私の写真が二枚と、クリスマスに送った和風のカードが
窓辺に飾られている。写真は、去年、恋人さんがふざけて撮ってくれたものだ。
横顔と、上半身を正面から撮ったもの。写真の中の私は、どこか遠くを見ていた。

そのあたたかな室内から見える外国の空は、おそらく夕方で、いまにも雪が
落ちてきそうな表情をしている。ガラスが区切る、ふたつの世界を見つめる。
行ったこともない街の、小さな窓辺に飾られた写真の中の私は、この空を
どんな思いで眺めているのだろう。妹から送られた写真をみて、ふと、そう思った。

ところで、東京に降った雪。
翌朝のあたたかな日差しで、ひとつぶ残らず消えていました。
そのあっけない消え方が、私から、よけいに現実感を奪うのです。

2004年01月18日(日)
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