月のシズク
mamico



 ピアスか、口紅か

日常的にお化粧はしないが、日常的にアクセサリーを身につける。
女性として、どちらが好ましい身だしなみなのかは分からないが、
ちょいとそこまでという時、口紅は塗らずとも、ピアスは付ける。

それが私のささやかな習慣であり、個人的なルールである。
他人にとっては瑣末なことでも、私にとっては必要なもの。
気持ちよく生活するための、そして安心して生きるための儀式のようなもの。

もう10年近くも前になる。
大学生になったばかりで、女の子はこぞってメイクに力を込めた。
もっと魅力的にみせるため、もっと美しくみせるために、女の子は
ぴかぴかの素肌にファンデーションを塗り、桜色の頬にチークをのせた。
あの頃がいちばん、肌本来の美しさ(若さとも云う)を持っていたなんて事実は、
当時はぜんぜん理解できなかった。それは、歳を重ねて初めてわかる、真実。

あの頃、うちによく女の子が泊まりに来た。
「お腹すいたから、コンビニでおでんでも買ってこよーよ」
誰かが提案し、私たちは賛成して身支度を始めた冬の真夜中。
彼女たちは一斉にパウダーをはたき、口紅を塗った。

私は、帰宅したときに外したピアスをテーブルの上からとって、もう一度
ピアスホールに通した。そして、彼女たちがめかしこんでいるのを眺める。
「マミコ、おもしろいよね。口紅は塗らないのに、ピアスは付けるんだ」

あのとき、ひとりの女ともだちが、心底おもしろそうに云ったことを覚えている。
私にとっては、口紅を塗りなおしている彼女たちの方が心外だった。
さっきお風呂に入ったばかりなのに、と思った。そのままでもきれいなのに、とも。
その彼女も、この春ママになる。時間とは、そういうものだ。

何かにしがみついて、あがなって生きていこうなんて思わない。
私はただ、日常の中の、私だけのささやかなルールを信じているのだ。

2004年01月12日(月)
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