 |
 |
■■■
■■
■ ラナンキュラスがプルチネルラ
私は名前を覚えるのが不得意だ。苦手、ともいう。 特に音だけで言われても、空気の振動と共に消えてなくなる。 で、「あなたさん、どなたさまでしたっけ?」と耄碌ジジイのようになってしまう。 まだ、文字認識で記憶する方が易い。カタカナ<平仮名<漢字の順かな。
近所の花屋に行くと、名前の複雑さと多様さに驚かされる。 撫子、女郎花、沈丁花なんてそっけなく記されていても、私は全然読めない。 だから、「これ2本、あれ3つ」なんて指示語に頼ることになる。 (ちなみに、なでしこ、おみなえし、じんちょうげ、と読みます。)
原産地が外国の場合、ほとんどがカタカナで記される。 さすがにこれは読める。読めるのだが、今度はぜんぜん憶えられない。 ロベリア、ムスカリ、デンドロビウム、スターチス、さて、最初の名前は? もう言えない。それでも、私は名の知らぬ花をひとつ買って帰る。
週末の朝、洗い立ての顔に化粧水だけつけて、コートと帽子を深々とかぶって 花屋へ行った。卸したての切り花がたくさんバケツに突っ込まれている。 そこで、私の目をひいたもの、ラナンキュラスの固く結ばれた蕾。 赤、オレンジ、黄色、ピンク、色とりどりの蕾がすらっと天を仰いでいる。 強めのピンク色のを二本買った。
花屋からマンションまでの100メートル、私は「ラナンキュラス、ラナンキュラス」 と呪文のように唱えながら歩く。まるでおつかいを頼まれた子供が「ぎゅーにゅう、 トマト、ぎゅーにゅう、トマト」と必死に使命を果たそうとするみたいに。 問題は、その100メートルの間に、食料を扱う商店やらコンビニやらあって、 私はそこに寄り道しなければならないこと。ペットボトルの水を買って、 おつりをもらう頃には、「ラナンキュラス」が危うくなっていた。
それでも何とか部屋にたどり着き、メモ帳にでも書き込んでおこうとマシンを 立ち上げる。メールを数通受信。「アレクセイと泉」「カフェタッセのチョコ」 「プルチネルラのお誘い」。私の眼が文字認識をし終え、はたと我に返る。 で、この花の名はなんだっけ。プル、チ、ネル、ラ?
やってしまった。
「牛乳とトマト」が「ラーメンとナス」になってしまった。 スーパーに着いて、途方に暮れる子供のように、私はモニタを虚しくにらむ。 それでもこの花の名前は、プルチネルラ、では、もちろん、ない。
2002年02月12日(火)
|
|
 |