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りょうちんのひとりごと
りょうちん
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2003年10月17日(金)
Vol.382 母が泣いた理由

おはようございます。りょうちんです。

母と同じ病室に入院していたKさんは、母の良き先輩だった。同じ病気を患い同じ手術を受けた母に対して、病院のことや残った障害のことなど、いろんなアドバイスをしてくれていた。タイクツな入院生活で仲良くなった友達として、いつも母とKさんのふたりは一緒にいた。
Kさんには身内の家族がいなかったんだそうだ。両親はすでに他界し、だんなさんとはずいぶん前に離婚し、兄弟も子供もいなかった彼女は生涯ひとりぼっちで、お見舞いに来てくれる人もあまりいなかったそうだ。母のところにしょっちゅう訪れる俺らを見ては、よく「いいわね〜」なんてうらやましそうに言っていたが、それはけしてひがみではなく、暖かい目で母や俺らのことを見てくれているのがよくわかった。
そんなKさんの容態が急に悪くなり、突然帰らぬ人となった。人の命なんて、本当はあっけないものなのかもしれない。思いもかけない訃報を耳にした母は、お見舞いに行った父の前で大粒の涙をぼろぼろこぼし、声をあげて号泣したんだそうだ。
母は、なぜ泣いたのだろうか。誰にも見取られずにひっそりと死んでいったKさんを、かわいそうに思ったからか。大切な友達を突然なくしてしまい、寂しくなったからか。それとも、同じ病気をしていたKさんが急死し、死ということが怖くなったからか。ひとしきり涙を流したあとで、「もう大丈夫!」といつものように母は笑って見せたそうだが、母が泣いた理由は本当のところはわからないままだ。
退院したらKさんの家に遊びに行くという約束は、もう果たせないけれど。落ち込んでいる姿は、全然母らしくない。少しでも早く元気になること、それがKさんがいちばん喜んでくれることなんだと思う。だから、前向きに、前向きに。