探偵さんの日常
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2002年10月06日(日) 刑事の嘘 〜ムーンライトダンス(3)






北海道に渡った私たちは、麻薬密輸のブローカーを割り出し、ブツの卸元の情報を得
ることに成功した。とはいえ、これは田所警部補のパー(警察手帳)効果によるもの
が大きい。探偵は、その正体を明かすことなく調査するために、調査が困難なときも
多々あるが警察官であれば、いざとなれば警察手帳が使える。いやがおうにも、探偵
の限界を感じ取った捜査だった。今の日本ではやはり、犯罪調査に関してはこの警察
手帳の威光にかなうものはない。



ブツの卸元はロシア人だった。日本の暴力団の手回しで、札幌の全日空ホテルに潜伏
していることを突き止めた私たちは、すぐにホテルの部屋に乗り込んだ。厳密に言え
ば違法捜査であるが、今回の捜査は麻薬密輸団全員の逮捕を目的としていない。松尾
への殺人容疑、ならびにこの麻薬密輸にかかわったとされる某社会主義政党の議員を
逮捕、もしくは非合法に追い詰めることを目的としていたため、違法捜査であろうが
関係ないし、通常の捜査手順では協力を求めるはずの北海道警にも一切連絡はしてい
ない。



そもそも、田所は警察内では外事課と名乗っているだけで、表向きの身分は司法警察
員ではない。手帳があっても身分なき警察官である。決して表に出てこない警察官−
特命を与えられ、潜入、工作、そして非合法手段で問題を解決していく−そんな警察
官たちもいるのだ。彼らは外部との自由な連絡は禁止され、プライバシーはほぼない
といっていい。女性が欲しくなれば、組織であてがうこともするような、そんな組織
が警察内にある。これは、本当の話だ。



一般的に言われているように、刑事警察の捜査と公安警察の捜査方法、捜査方針は違
う。というか、各セクションによってやり方はそれぞれだといっても過言ではない。
警察は、一般人が考える「警察=犯罪があれば捜査し、犯人を逮捕する」という考え
をもっていない。あくまでも行政警察、司法警察としての法や方針に基づいた運用を
されるだけである。その結果として、犯人が逮捕されたり、政治的理由で見送ったり
するだけの話だ。そして今回われわれが行っている捜査の場合は、殺人犯や密輸犯の
逮捕、というよりそのような不法勢力の「排除」を目的としている。


ただその「排除」を行う理由は田所と私で違っていた。田所はもちろん「任務」で行
うだろうし、私は「悪評を晴らす」ために行っている。



潜伏していると思われるホテルの部屋はツインルームフロアの一角にあった。ドアの
真横に立ち、左手でルームキーをそっと挿す。「カチャリ」と小さな音が開錠を知ら
せてくれる。田所はいつのまにか右手に握っていた特殊警棒で相手の反撃に備えてい
る。

「1,2,3!」 二人同時に部屋に飛び込む。部屋内には暴力団風の男が二人。背
の高い白人が一人。

「動くな!警察だ」
田所が大声を張り上げた。男たちは来ることを予感していたかのように、抵抗せず、
両手を挙げた。

「私たちは、逮捕しに来たのではない。但し、嘘をつけば即逮捕だ」
部屋の中にいたのは密輸の日本側の主犯である暴力団組長とロシア側のブローカー本
人だった。刑事警察ではこれで事件解決、めでたしめでたしとなるわけだが、今回は
ここからが勝負だ。3人はすっかりおとなしくなっている。



私は、部屋の中にあった3つのスーツケースを素早く開けた。中身は2つが紙幣、1
つが覚醒剤らしき紙袋が詰まっていた。中身と紙幣を掴んで組長らに投げつけると、
田所が言った。


「これは、ロシア産じゃないだろ。どうだ。・・・われわれは刑事警察じゃない。裏
の議員と、北朝鮮の麻薬を撲滅したいだけだ。正直にウタえば俺たちは帰る。言わな
ければ今ここで逮捕だ」
有無を言わさぬその態度に、渋々答えだしたのは意外ながらロシア人の男だった。



「私は元KGB。議員に頼まれてやっただけだ。薬は日本海の海上で乗せかえて新潟
と北海道行きの2隻に分けた。その後のことは知らない。その議員の名前はヤマダ。
もう、私も祖国を追われた身。だからこれ以上わからない」
かなり日本語が話せる。事実かどうかの裏づけはないが、嘘をついている雰囲気では
なさそうだ。


暴力団二人は、日本側の密売人組織を操っていた。今回、松尾を殺したのは本州側の
ヤクザで、裏に議員が絡んでいることは知らなかったと言う。逮捕されないという安
心感からか、ヤクザの二人はその背景や取引の詳細までをべらべらしゃべった。



田所は、すぐにその場で電話をし、英語と日本語でなにやら話している。



電話をして10分後、ドアをノックする音が聞こえる。私は緊張したが、 「これ
で、あんたの疑惑は晴れたことになる」

と言って、田所は私の腕を引いてドアに近づき、ドアを開けた。外からは警察官がな
だれ込んでくる。田所は私の手を引いて部屋を出る。



「奴らは逮捕されるみたいだ。」


そう言って田所は笑った。部屋の中の様子を見ることも無く、エレベーターでロビー
まで降りると


「さて、では本丸に切り込もうか」



この事件、悔しいがすっかり田所に主導権を握られている。ただし、助けられた恩も
あるし、ここは国家スパイの顔を立てておくことに私は決めた。



飛行機で東京に戻る際,田所は私のわき腹をつついて,ニヤリと笑いながら


「あんた,泳げるかい?」と言った。


次回,緊迫の海へ。




つづく。












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