探偵さんの日常
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2002年09月27日(金) 謎の組織と罠 〜国際手配の女(3)






「車内が物色されている」




気がついたのは、私が車内に罠を仕掛けたからだった。車を離れる前に、そっと紙片を全てのドアに挟んでおいたのであるが、それが無くなっていたことが何よりの証拠だった。ただし、車内には何も残してはいなかったため、賊は目的を達成できなかったようである。念のため、他に爆発物などがないかをチェックしたが、その形跡はなかった。



試されているのか、それとも・・・罠にはまってしまったか。今のところは判断ができなかった。彼女を車内に座らせてから、私は依頼者に電話をかけた。



「どうやら、尾行されているようですが。なにか、思い当たるフシはありますか」

ストレートに聞いてみる。依頼者からは、意外な回答が帰ってきた。



「気になさらないで下さい。危害を加えるようなことはありませんから。きちんと、約束の報酬はお振込みしておきました。予定通り、明日羽田空港まで送ってください」



これ以上聞いても無駄、と判断した私は電話を切った。なにせ、この依頼者を紹介してきたのは官邸筋にもいた人物。私に言えない事情があるのだろう。



「まぁ、たまにはいいわな」

自分への慰めをつぶやいて、彼女の指示どおり、東京タワーに向かうことにした。



首都高速に再度乗り、霞ヶ関まで飛ばす。途中何度か、ルームミラーで後部座席を確認したが、彼女は疲れてしまったのか、すやすや寝息を立てている。


ちょうど東京タワーの下についたとき、彼女は目を覚ました。


「降りますか?」


「いえ、ここで。。。」


感慨深げにタワーを見る彼女の目からは、なにか一つの強い意思を感じ取ることができた。ただ、それが何を指しているのかは私にはわからなかった。



時計は夜の8時をまわっていた。


「食事にしませんか?私の知り合いの店があるもので。」


「今日は日本で一番楽しい日になりそうです」


彼女は、涙ぐんだ声でそう言った。


よほどの事情があるに違いない。そっとハンカチを彼女に渡し、元麻布の高級料亭
「うら多」に向かう。高級料亭とはいっても、政治家でもトップクラス、あるいは外国要人などしか知らない店だった。私は駆け出しのころ、ここの女将には世話になっていた。あまりにもVIPが多く来るため、常に目立たない形で私服の警察官が配備されている場所である。




外苑東通りから今のロシア大使館に向かう道を曲がろうとしたとき、突然、ベンツが横から飛び出してきた。とっさにハンドルを切ってブレーキを踏む。ベンツは急停止して、開いたドアから男が転がり出てくる。



「つかまって!」


そう後ろに怒鳴った私はギアをRに入れ、ターンを試みる。


男はこちらに走ってくる。手には何かを持っている。危険だ!


と、そのとき、どこにいたのか覆面パトカーが2台、けたたましいサイレンを鳴らしながら大使館方面と私の後方から一台ずつやってきた。



男は踵を返し、ベンツに乗り込むが早いか、フルアクセルで逃げていく。だが、覆面パトカーはベンツを追わず、近くに停車しただけで誰も降りてこない。パトランプは自動的にしまわれている。


と、ここで電話が鳴る。出ると、あの田園調布の男の声で


「お騒がせしました。大丈夫ですから、どうぞそのまま」


一方的に電話は切れた。覆面パトカーはそっと離れていく。彼女は後部座席でブルブル震えている。


「もう大丈夫ですから。。。」


私は言葉を飲み込んだ。本来なら、『あんたは何者なんだ』と言いたい気分である。ただ、ボディーガードの私にさらにガードがついている、という異常な状況に気がついた私は、逆に少し安心した。それと同時に、私にボディーガードを頼んだ理由がなんとなく見えてきた。


からくりはおそらくこうである。


おそらく、このキムさんは日本政府が関係している重要人物なのであろう。ただ、キムさんを公に警察の保護下に置くことができないなんらかの理由があるため、政府は間接的なガードに留め、私に直接のガードを依頼したというシナリオである。何かあった場合は、日本人である私をガードした、という言い訳が立つ。彼女はそれほどの人物なのだろう。ただ、この予想が的中していたことを知るのはもっと後日になってからだが。



「うら多」に到着した。彼女は震えも止まり、落ち着きを取り戻していたようだっ
た。私は、彼女の落ち着きようから、彼女をどこかの機関の人間と見始めていた。


十分な注意を払いながら、内部に入る。今日も「うら多」の内外に、私服警察官らしき男 を確認できる。


座敷に案内されて、食前酒を飲んだあと、私は単刀直入に尋ねた。


「あなたは、どこの機関にいらっしゃる方ですか?」


彼女はうつむく。そうして数十秒が経過した。
彼女はゆっくりと顔を上げて口を開いた。


私は,ある国の工作員だったのです。でも今は,自国民を大量に殺しただけの人殺しです。


たとえ,それが自国の情報部の指示だったとしても・・・・


つづく。


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