探偵さんの日常
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探偵ファイルより抜粋です。
19××年、東京都大田区田園調布。
ある人に依頼され、ボディーガードの任を背負った私は、高級住宅街の門前に立っていた。
インターフォンを鳴らすと、しばらくの沈黙の後に、無言で門が開く。豪華な庭園を歩き進むと、男が私を出迎えた。男は大柄だったが、スーツの下には均整の取れた体があるのを私は見抜いていた。
「お待ちしておりました」
男が鋭い眼光を私に向けながら会釈する。私は依頼者に言われていたとおり、
「北海道の北川です」
と答えると、男はようやく笑顔を見せた。
「失礼しました。それでは中へどうぞ。」 一体何坪あるのか、外から見ただけではわからない豪邸の中へと通される。
男に応接室らしいところに通される。男は一度部屋を後にしたが、10分くらいたったころだろうか、一人の女性を連れて部屋に入ってきた。女性はひどく痩せており、おそらく年齢は30歳台なのだろうが、その血色は死人の様のようだ。
「こちらが、ボディーガードをお願いする方です。お名前は『キム』さん、ということでお願いします。韓国の方ですが、観光のために日本にいらっしゃってます。明日日本を出国しますのでそれまでの間、ガードをお願いします。ああ、キムさんは日本語が堪能なので、言葉は気にしないで下さい。」
「よろしくお願いします」
とても韓国の方とは思えない流暢な日本語だ。私は笑顔でうなずき返し、
「こちらこそ、短い間ですがどうぞよろしく」と答えた。
当然、私にくる依頼は「訳あり」なものが多く、その詳細を根掘り葉掘り聞くことはできない。その代わり報酬は高かった。たった24時間ほどのボディーガードで300万円だったろうか。当時、破格の値であったことを覚えている。
正直、このときは、『どこかの財閥の娘か何かがお忍びで日本に来ているんだろう。それにしても24時間で300万か、いい仕事だ』くらいにしか思っていなかったのだが、その認識は後に根底から覆ることになる。
男が用意した車で、キムさんと豪邸を後にした。キムさんは、
「東京ディズニーランドへ行って下さい」
と、柔らかな口調で言う。
「緊張なさらずに。理由はお尋ねしませんし、どうぞリラックスなさってください」
私は前方に目を向けたまま、首都高速へ車を向けた。
首都高速の入り口を越えるとキムさんは突然,
「私,死ぬかもしれないんです」とつぶやいた。
つづく。
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