| 2023年12月15日(金) |
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか？」�� |
2021年1月26日 つづきです
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか？』
フィリップ･K･ディック
「彼はまだ知らないんだわ」
プリスが鋭い、ざらついた声で言った。
「私たちがどうやって火星から逃げたかを。
向こうで何をしたかを」
「ああするしかなかったんだ」
ロイ･ベイティーが唸るように答えた。
ひらいた入口のドアをわきに、さっきからアーム
ガード･ベイティーが立っていた。
彼女は口を切り、中の三人はそっちに顔を向けた
「イジドアさんのことを心配する必要はないと
思うわ」アームガードは熱を込めて言った。
つかつかと歩み寄り、イジドアの顔を覗き込んで
「彼が言ったように、人間たちは彼にまともな
扱いをしなかったのよ。 あたしたちが火星
で何をしたかに、彼は関心を持ってないわ。
彼はあたしたちと馴染み、あたしたちが好き
になった—その感情的な容認が、彼にとって
はすべてなのよ。 あたしたちにはちょっと
理解し難いことだけど、でもほんとだわ」
もう一度すぐそばから顔を見上げるようにして、
アームガードはイジドアに言った。
「あたしたちを密告すれば、あなたは大金が
もらえるのよ。それをご存知？」
夫に向き直って、
「ご覧なさい、彼はそのことを知っているけれど
密告しようとしないのよ」
「あなたは傑物よ、イジドア」プリスが言った。
「あなたの種族の誇りだわ」
「もし、彼がアンドロイドなら」と
ロイが口を合わせた。
「明日の十時までには、我々を密告したこと
だろうな。 出勤と称してここを出て、
それでおしまいだったろう。
いや、まったく賛嘆のほかはないね」
本気とも冗談ともつかない口調だった。
少なくとも、イジドアには見当がつかなかった。
「それなのに、我々はここを友情のない世界、
敵意に満ちた顔だらけの惑星と想像して
いたんだ」ロイはゲラゲラ笑いだした。
「あたしはちっとも心配してないわ」と
アームガード。
「いや、足の裏まで怯えきっているべきなんだ」
とロイ。
「投票しましょうよ」プリスが言った。
「宇宙船の中で意見が分かれたときに、
よくそうしたじゃない」
「とにかく」とアームガード。
「あたしはこれ以上何も言いません。 でも、
もしここを出たら、あたしたちを快く迎えて
協力してくれる人間はもう二度と見つからない
わよ。イジドアさんは—」彼女は言葉を探した
「特別なのよ」プリスがあとをひきとった。
追われた残党のネクサス6型たちを
助けようとするイジドア。
彼は掛け値なしに助けようとします。
相手が人間ではない、アンドロイドでも。
そのことをアンドロイドが「特別」だと言います。
この場面にはハッとさせられた
わたしたちが《人間らしい》と思う、
《人間らしい》とする、その正体を
それでも助けようとするのが人間
その行為が間違っているとわかっていても
それをやろうとしてしまうのが人間
《間違っているとわかっていても》
ある種、ここには人間の愚かさがありますよね
感情移入というのは愚かなものかもしれない
でもそれが人間なのだ、と断言できそうなのです
《バカと何とかは紙一重》
人間はピンボケマル特イジドアを侮蔑していた。
イジドアは一年あまり前から特殊者の仲間入りを
しており、しかもそれは歪められた遺伝子のせい
だけではなかった。もっと悪いことに、精神機能
テストの最低基準にも合格できず、俗にいうピン
ボケの部類に入れられてしまったのだ。
三惑星の侮蔑が彼の上に降りかかったのである。
しかし、彼は生きぬいた
《死は確かなもの、生は不確かなもの》
賢さは、ある意味で
人間らしさを奪うものかもしれません。
利害を感知して一切の無駄を省く合理的思考は、
この物語ではアンドロイドのことです。
それよりも損得なしに困っている人を助ける、
自らの身を呈して誰かのいのちを救う、
救おうと思っていなかったとしても、
理屈抜きでとっさにカラダが動いてしまう！！
自らの危険を顧みずに行動してしまう
そんな姿こそが《人間》ではないでしょうか？
生きること＝人間 なのだとしたら、、
◎人間らしさは不確かなもののことかもしれない◎
わたしたちは、不確かなもののことをよくないこと
のように考えてしまいがちですよね
でも、もしかしたら、、不確かなものこそが
わたしたちを《人間》にしているのかもしれません
「私にとってこの作品は、人間とは何か？という
疑問に対する初期の結論を述べたものである。
…あなたがどんな姿をしていようと、
あなたがどこの星で生まれようと、
そんなことは関係ない。
問題はあなたがどれほど親切であるかだ。
この親切という特質が、
私にとっては、我々を岩や木切れや金属から
区別しているものであり、それは我々が
どんな姿になろうとも、どこへ行こうとも、
どんなものになろうとも、
永久に変わらない」
フィリップ･K･ディック
おどりをおどる者として
いつも《そうじゃない》と思うことがあります
それはここでもおなじ
だって「親切」は結果としての言葉だよね？
親切をしようと思ってやっていない、
そのことの方がもっともっと大切だと思う
《そのもの》は言葉になる前のもの
言葉にされるとどうしても反感を覚えます
意図されたものを「親切」と呼べるか
伝えたい伝わってほしいものは言葉じゃない
この気持ちがあるかぎりおどりになれる、
そんな気になるのです
この頃、むかし言われたことを思い出します
「タイスケがやってるのはダンスじゃないかもね」
| 