2003年10月15日(水) キン、さようなら



 佐渡トキ保護センターで飼育されていた日本トキの最後の1羽「キン」が10日の朝に死んでしまった。推定36歳、生存期間は世界最長、人間なら100歳以上に匹敵するらしい。日本を象徴する国際保護鳥だった国産種のトキはこれで絶滅した。

 死因は当初、老衰とされていたが、なんと、死因は突然飛び立ち、扉に衝突したことによる頭部挫傷であったらしい。
 キンが飼育されていた保温室にあるビデオのモニター録画や解剖の結果、キンは突然飛び立ち、保温室と飛翔ケージの間にあるアルミ製の引き戸にぶつかり、頭を強く打ってしまった。約3メートル近く飛んでぶつかり、ほぼ即死の状態だった。トキ保護センターでは「キンは両目が見えない状態で、突然飛び立つなど考えられなかった」と話しているそうだ。

 腹ばいの姿勢が多くなっていたものの、前日までは食欲もあり、解剖をしても年令のわりに若々しく、もう数年は生き長らえただろう、と解剖の執刀を行った獣医は言っていたようだ。

 突然飛び立った時のキンの気持ちはどういうものだったのだろうか。発作的だったのか、大空へ羽ばたく夢でも見たのだろうか、野生の魂が不意に呼び覚まされたのか。

 キンは幼鳥だった1968年に、故宇治金太郎さんの手で捕獲された(金太郎さんにちなんで、キンと名づけられたそうだ)。捕獲する前は餌付けをせよとの命を受け、餌付けによって宇治さんになついた状態で捕獲されたらしいが、宇治さんはこの捕獲をのちのち悔やんでいたらしい。

 人工飼育でなければこんなに永らえたはずはない、野生なら十数年の寿命だった、とのこと。
 でも。ゲージの中で頭を打って即死なんて、あまりに哀れでやりきれない。まさに言葉は悪いが「飼い殺し」だ。関係者もやりきれない思いだろう。
 キンが飛び立った時の気持ちのままで、そのまま天国へと羽ばたいたことを願う。


−補足−
 なぜ私が、このキンのことを気にしているか、もっと言うと、なぜ音楽日記にこのことを…と疑問に思った方はいるだろうか(いや、たいしていないだろうが、念のため)。
 以前、女声合唱のためのファンタジー「越後の恋歌」より「朱鷺の歌」をいう歌を歌ったことがあった。
 中村千栄子さんの作詞、曲は湯山昭さん。

♪滅びゆくものへのあこがれを胸に
 おお 朱鷺よ
 お前とともに歌おう
 青春の日を あこがれの歌を
 朱鷺の歌を いま

そんな歌だった。
 恥ずかしながら、この曲名で、「トキ」を「朱鷺」と書くことを知った。
 そして、この歌への思いを、トキのことを知ることで深めたという経過から、その後も折にふれ、トキを、キンを、気にしてきた。

 訃報を悲しく聞いた翌日、老衰でなくキンが突然飛び立ったための死、と訂正されたことを聞き、この歌をバックに空へ舞い上がったキンが、自由に飛ぶキンが目に浮かび、しばらくこの歌が、頭から離れないでいる。


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