ぴんよろ日記
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この時期の山陰はカニだ。 サービスとかなんとかじゃなくて、 まるでカニしか食べるものがないようにカニがある。 他の天気のあり方を忘れてしまったように、 重い雲が広がっているのと、よく似ている。
旅の二日目。 町を見るでもなく見て回り、 道を見るでもなく見ながら走り、 とにかく四六時中、全員が心底明るくはなれない気持ちのまま、 ふだんは生活を共にしていない人と、狭い車やひとつの部屋の空間で過ごす。 もちろんその中でも、それなりに明るく楽しい瞬間が、時々沸き起こりはする。 しかしそもそも人とペースを合わせられない自分の心の砂の像が、 はしっこの方からポソリ、ポソリと崩れ、 しかもおそろしいほどの加速度がついているのがわかった。 これはまずいな、と思って、 大好きな米子の本屋さんで過ごす時間を作ってもらう。 少し、落ち着く。
しかしその間、他の人々は私の予想をはるかに超える困った行動を取りやがり、 本屋さんで落ち着いて修復した部分を、こっぱみじんに破壊しくさった。 かなり押さえに押さえて、小爆発を起こしたあと、 とりあえずひたすら運転して、心へ応急措置をほどこす。 (運転すると落ち着くのだ)
それから先は、どんどん笑えなくなり、でもがんばって笑い、 がんばって言葉をしゃべり、を、小さく大きく繰り返し、 こんなに長いと思う旅も初めてだと目を伏せながら、 いや、時はきちんと過ぎていってくれるのだからと、 遠くを見ながら過ごしていたが、 旅の三日目、 ついに日本一高いところにあるという灯台のそばに立ち、 海の遠いところに雪だか雨だがが強く降っているのを見てしまった瞬間、 涙がばーっと出てきて、どんどん出てきて、 近づいてきた人を冷たく遠ざけ、ひたすらひとりで海を撮った。
山陰の風景は、あまりにも心をひきずり出しすぎる。 夏はほどよいが、冬は、慣れない人間や、ただでさえ考えすぎる人間にはつらい。 山陰は大好きで、醍醐味はそれでも冬にあると思うし、 これからも冬にだって訪れたいとは思っているけれど、 私はしょせん南国育ち。こんな気分の時に、山陰の海と空には勝てっこない。 暮らすのは、長崎が北限のようだ。
心でっかち、という言葉が頭に浮かんだ。 なにごとも、度が過ぎるとつらい。 過ぎなくてはできないことも、あるが。
ひとまず、それでも帰らなくてはならないから、 暗い気持ちは風景のせいにして、 長崎に向かって高速を走るごとに明るくなっていく気持ちをおかしく感じながら、 クリスマスイブのディナーは、サービスエリアの肉うどんだった。 それはそれでいいと思った。 うれしいプレゼントのようなメールも届いた。
長崎が、あまりにあたたかくて、驚いた。 でも、急に寒くなったのだと聞いて、さらに驚いた。 ちょっと湿気た空気の匂い、長崎の匂い。 思った通り、高速移動は心も体もどこか置いてけぼりだったから、 山陰に飛ばされていた分身が、その匂いで長崎の本体にしっくり戻った。
長かった。
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