ヲトナの普段着

2005年05月12日(木) どこにでもいる妄想男

 チャトレしてると一度は相手したことがあるだろう「妄想男」くん。あちらこちらでチャトレに取材を試みると、誰もが幾つかの体験談を聞かせてくれるというありがたいネタ男なんだけど、ほんと、どこにでもいるって感じ。いや、どこにでもいちゃまずいんですけど……。
 
 
 軽いところでは、チャトレの言葉を自分の都合のいいように解釈する男。まあ「思い込み」に近いような気はするんだけど、やはり広義の妄想系には違いないだろう。人間には防御本能というのがある。傷つけられまいとする本能だよね。それが、相手の言葉を自分にとって都合のいい方向に解釈させてしまうのだろうと僕は想像している。
 
 とかく「相手を傷つけない言動」を心がけることが是であると思いすぎると、言葉はどうしても曖昧になり、ときに相手を肯定する意味の言葉の連続となってしまうものだ。肯定されていれば、誰だって「思い込む」だろう。曖昧な言葉がこうした軽度の妄想男を生み出しているとも考えられる。甘やかして育てた子どもはそのようにしか育たないのと同じで、ネットでの妄想男も「誰か」が無意識に、そのように育てているのかもしれないな。
 
 対策は至って簡単で、はっきりと言うことでしかない。ここをチャトレちゃんには誤解して欲しくないんだけど、「楽しい時間を過す」ということは「相手を喜ばせる」という意味ではないと僕は思っている。心と心が通じ合うことこそが人と人とが言葉を交わす上での最大の醍醐味であって、そこではときに、率直な意見もしくは辛らつな言葉ですら是となることを忘れて欲しくはない。間違いをそのままにしておくと、大変なことになりますよ。
 
 
 この軽度妄想男が進化すると、妄想系リアル男に変身する。普段は明らかな妄想系のノリで会話してて、相対してるチャトレちゃんの多くが「なんか楽しい人だわ」と感じつつ妄想ペースをあわせていると、当の本人は妄想と現実との境目がわからなくなって「リアル認識」してしまうというタイプ。これはかなり始末におえない。
 
 妄想が妄想であるうちはいい。いくら話を展開しようとも、それは妄想世界の話でしかないからだ。けれどそれと現実とが交錯しはじめるとまずいよね。現実は妄想のようにはいかない。妄想世界で恋人同士だったからといって、現実世界でそうなれるとは限らないということだ。それでも妄想系リアル男は、妄想を現実のものと認識してしまう。現実であるからには、彼らはきっとゴールを目指すだろう。
 
 そう、実際に逢おうとするだろうし、逢えなければ「どうして逢えないの?」と疑問を投げかけてくるに違いない。相手にしてみれば妄想は妄想でなく現実であって、愛し合う者同士が直接逢って愛を確かめ合うのは至極当然の論理だからだ。逢う気がないのに妄想世界で相槌打っておいて、彼にそういう問いを投げられたらどうする?ね、始末におえないでしょ。
 
 
 ただし、妄想男も筋金入りのレベルに達すると、また話は異なってくる。自分が妄想世界で生きていることをしっかりと自覚してる本物の妄想男だ。この手合いは、前述の二例とはまったく反対で、扱いも極めて楽ちん。一緒にどこまでも妄想世界を楽しんであげればいいだろう。
 
 自分が妄想世界に生きてることを自覚している男たちは、おそらくはそのプロセスを重要視して楽しんでいるのだと思う。妄想世界が破綻して消え去ることを嫌うだろうから、リアル男のような強硬手段もとらないだろう。ゴールのない世界で、ひたすら「恋人」との時間を楽しむのが彼らだ。その望みに応え、願いをかなえてあげるのも、僕はチャトレの大切な仕事なのかもしれないと思うことすらある。
 
 さりとて、本物の妄想男であるか否かを見分けるというのも、かなり至難な気がする。本人が「天地神明に誓ってわたしは妄想男です」と公言していれば話は別だけど、いきなり会話で妄想世界に入られても判断の下しようがないからだ。やはり序盤戦は控えめに状況を観察し、相手が筋金入りだと感じられたら徐々にペースを上げていくというのがいいかな。妙なアドバイスだとは思うんだけど……。
 
 
 妄想が好き、もしくは妄想を受け入れやすい男というのも、ネットにありがちな歪のような気が僕はしている。だからといってそれを完全悪だとは思わない。誰だって生きていくうえでの心の拠り所ってのは求めるのが自然で、妄想世界にそれを求める者がいても、彼を批難することはできないだろうと思うからだ。
 
 しかしそれがときに、犯罪にまで発展するケースがあることも忘れてはいけないだろう。人の心というのはどこか一触即発のような性質を秘めていて、良いほうに転がればいいんだけど、悪いほうに転がると大変な事態を引き起こしかねない。そしてライブチャットという世界にあっては、そういういわばもろい部分を持つ人の心と相対しているのだという自覚を、是非持って欲しいとも思う。
 
 楽しけりゃいい、では済まされない。相手を見極める観察眼と凛とした態度は、チャトレにとって必須であろうと僕は思うよ。


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ヒロイ