ヲトナの普段着

2005年05月08日(日) 話題をください

 過日とあるチャトレちゃんに、「僕って本当は寡黙なんだよ」という話をしたら、「うっそー」と目一杯驚かれた。そういうことは何も初めてではなくて、これまで幾度となく「信じられない」といわれ続けてきたんだけど……ボクって寡黙なんすよ、ほんとは。
 
 
 誰もが僕を「饒舌な男」と思うらしい。そこで済めばまだいいが、「口が達者」と言われることもある。まあそれは決して否定はしないけど、口が達者というのは少々意味合いが違うんじゃありませんか、と思いつつも反論せずに目の下をピクピクさせてしまう。何がいったい僕を饒舌な男に仕立て上げたのか。それは他でもない。これです、これ。このパっと見た瞬間に読む気が遠くシベリアの彼方にまで飛んでいってしまうような長文。これだけあれこれ書く男が寡黙なわけがなかろうというのが、彼女たちの大方の言い分なわけ。
 
 まったく喋らないということはない。いくら寡黙といえども、必要な会話はするし、最低限社交的な話術はわきまえているつもりだから。けれど僕の会話のレベルが饒舌であるとは、僕には到底思えない。むしろ現実の僕は、聞く側にまわることのほうが多いくらいだ。お喋り好きな実母と、相手の状態を無視して話しかけてくる妻に鍛えられてるおかげか、僕はひと一倍聞き上手だとも自負している。
 
 前出の彼女がこうも言っていた。「チャットする人ってお話し好きよね」と。僕もそう思う。でも僕は饒舌ではない。それじゃなぜチャットしてるのか。それはお話ししたいから。意味わっかんなーい、じゃなくて、チャットする人たちにも幾つかのタイプがあるということだろうと、僕はそのとき思ったんだ。つまりは、本当にお話し好きなタイプと、出逢い目的に目を輝かせているタイプと、お話聞くのが好きなタイプの三つね。ま、エロ系は脇に置いといて……。
 
 僕はこの三つのどれかなぁと考えると、最後の「聞くタイプ」かなぁと思う。もちろん僕から話題を出すこともけっこうあるけど、多くの場合、僕は相手の話題提供を待っているから。そしてその話題に対して「自分を展開」していく。というのが僕のチャットの基本形のような気がするんだ。
 
 
 ライブチャットのコラムを書いていながら妙な物言いだけど、僕はそれほどチャットマメな奴ではない。マシンにはメッセンジャーも二種類搭載してあって、毎日デスクにいるときは常駐してるけど、用事がなければ使いはしない。たまには「ちょっとお話ししましょうねぇ」もあるけど、メッセをやってるから常時チャットしたい民族という解釈は間違ってるとすら思う。ま、その反面、お気に入りのチャトレちゃんのもとには足げく通うわけですが……。
 
 僕がネットを始めた当初から、チャットと掲示板というのはコミュニティーの二大派閥だった。双方に手を染めて僕が「自分にはこれがあってるな」と感じたのは、チャットよりはむしろ掲示板。リアルタイムでお話しするよりも、ひとつひとつの文字や文章をゆっくり自分のペースで考える作業のほうが、僕には向いていたということだろう。じじつ、僕は書き物をやっている。小説にしてもエッセイやコラムにしても、僕は自分のペースで文章を推敲し形作っている。それがきっと、性格ってやつなんだろうな、とも思っている。
 
 
 役者という職業の人たちがいるよね。なかには役柄そのまんまな人もいるようだけど、僕が「役者」という呼び名で思い浮かべる人たちは、皆一様に役柄とは違う人格を持つ人たち。彼らは「役者」であって、役としての人物そのものではないからだ。けれど彼らにとっての「役」は、ときに自己以上の存在になるのだとも想像している。それが役者というものだろうとね。
 
 僕は自分をそういう人たちと結びつけようとは思わないけれど、文章を沢山書くから饒舌だろうとイメージする根底には、役者の人格を役のそれと重ね合わせて見る姿と似たものがあるような気がしている。役の上で快活だから彼自身もそういう人間であるとは限らない。彼らは「役を作る」のが仕事だから、その仕事を自分なりに一生懸命こなした結果、そこに自分とは違う人格が役として具現化されるのだろう。
 
 同様に、ものを書く人にとって文章が自分を表現する手段であるならば、それに必死に取り組んだ結果がロシアの向こうのほうにまで飛んで行きそうになる長い文章なのであって、その量が書いた本人そのものの「お喋り度」を測ることにはならないだろう。もちろん、そこに展開されている内容については、その限りではないけどね。
 
 
 僕がチャットしていて一番困るチャトレちゃん。それは、新たな話題が出てこないチャトレちゃん。これ、ほんと困る。指が止まって動かなくなり、思わず画面とにらめっこしてしまう。その手のチャトレちゃんたちは、ある話題を僕が展開しようと試みても、なぜか展開し難い返答をしてくれる。そう、すぐにお話にエンドマークがついてしまうのだ。展開のしようがなく、僕は深い海の底にぶくぶくと沈んでいくしかなくなる……。
 
 お願いだから、話題をください。チャットレディっていうのは、話してナンボなんでしょ。であるなら、自分で果てしなく展開できる話題のひとつやふたつ、常に小脇に抱えていてください。どんなお客さんが来ても楽しい時間を過せるような、そういう環境作りこそが、きみたちの仕事なのだろうから。


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