ヲトナの普段着

2004年03月15日(月) 思い込みという名の刃

 思い込んだら試練の道をゆくが男のど根性、と歌ったアニメ主題歌が昔ありましたが、思い込みというのは人の力を普段以上に発揮させる魔力を秘めているのかもしれません。それがプラスに働けば良いのですが、ときにマイナスに働くから困ったものです。
 
 
 思い込みが激しい人というのが、世の中にはいます。僕の身近にもひとり。実母がそのタイプでして、何か出来事があるときまって「あれは○○だと思う」と得意の想像を広げます。想像で留まっていればそれは思い込みとは言わないのですが、彼女の場合はそれがいつしか、確認もしていないのに「あれは○○に違いない」へと変化していくのですから、そうなるともう立派な思い込みとしかいいようがありません。
 
 かつてはそんな言葉にいちいち反応していたのですが、最近では傍観するのみで、言葉を返すのも面倒になってきました。冷たいようにみえるかもしれませんが、考えようによっては、自分の世界で存分に思い込んで過ごせるのですから、それはそれで幸せなのかと思ったりもします。普段の生活に支障があるなら問題ですが、蚊帳の外の話なら「勝手にして」という感じです。
 
 蛇足ですが、こういうタイプの人は、みのもんたの番組をみてその日のうちに「試して」みる人かもしれません。「これが体にいいらしい」と思い込んだら最後、いかなる試練の道でも突っ走るんです。ただ残念なことに……持久力に欠けているようですが。
 
 
 インターネットが普及し、オンラインで一対一のコミュニケーションが盛んに行われるようになってきましたが、そんなネットの世界だからこそ、実生活では決して思い込まないような人ですら、思わぬ罠にはまってしまう傾向も少なからずみえる気がしています。
 
 一対一の繋がりを、オンラインではピア・ツー・ピア(P2P)なんていいますけど、世界中どこにいても即座にP2Pになれる環境には、目を見張るものがあります。よくウェブは開かれた世界だと称する方がいますが、P2Pの関係を俯瞰してみると、そこには驚くほど数多くの閉鎖的な空間があることに気づくのではないでしょうか。平たく言えば、果てしない銀河の宇宙に、あまたの密室が漂っているような感じです。
 
 その「擬似密室」は、人の心にどのような影を落とすのでしょうか。僕はのひとつが、思い込みではなかろうかと想像しています。自分と相対している相手が自分だけとP2Pであるわけがないのに、いつしか自分と相手とを繋いでいる一本の細い線のみをみつめてしまう。声をかければ返ってくる。涙を流せば癒してくれる。怒りも寂しさも受け止めてくれる相手が、それこそふたりだけの密室にいるわけですから、相手が自分ひとりだけと繋がっていると思い込むのも無理はないのかもしれません。
 
 
 思い込みは何を生み出すでしょうか。考えられるのはふたつ。ひとつは相手への要らぬ負荷、すなわち気持ちの押売です。投げる側は一対一だと思い込んでいます。まさか相手が数十人を相手にしているなどとは思わないでしょう。さすれば必然的に、一対一のペースで気持ちを届けようとしてしまいます。それが受け取る側にとっては負荷になるということです。
 
 ふたつめは、思い込みが思い違いであったと気づいたときの、自分自身の心の傷です。これは相当痛いでしょうね。自分の思い違いが原因であるだけに、気持ちのやり場もなかろうと想像します。素直に思い違いであったことに気づけばまだ良くて、最悪相手を逆恨みしないとも限りません。人の心などというものは、どこかで自分勝手な思考回路を持つもののようにも思えます。怖いというか、哀しいですね。
 
 相手への要らぬ負荷も、自身の心の傷も、元をただせば「謙虚さ」が欠けていた辺りに行き着きそうな気がします。一対一ではないんだ、密室ではないんだという気持ちがあれば、どこかで回避できたのかもしれません。これは前出の「みのもんたに反応するタイプ」とも共通するのですが、そういう人たちは得てして、広い世界で生きていないようにも思えます。よく言えばお嬢さんやお坊ちゃん、悪く言えば世間知らずです。知らないから思い込んでしまう。とても自然な流れのようにも思えます。
 
 
 男と女の間には、よくこの「思い込みという名の刃」が行き交います。そこにはもちろん、求める純粋な心があるから思い込みも生まれるわけで、一概に謙虚さが足らないと否定もしきれない現実があることでしょう。謙虚を越えた思い込みが、ときに予想しきれない馬力を生み出し、それが功を奏することもあるかと思います。
 
 それだけに、単純に謙虚になろうよなどとはいえないのですが、やはりたまには冷静に自分と相手の関係を俯瞰する心の余裕も、恋愛にはあって然るべきだと僕には思えます。
 
 思い込みという名の刃は、上手に鞘に仕舞っておきましょう。
 
 
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Figure Vol.2-05:Rouge 公開


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