ヲトナの普段着

2004年03月11日(木) 歓楽街の路地裏で3 /ピンクサロン

 キャバクラも謎ですが、そのストレートな名ゆえに輪をかけて謎めいているのがピンクサロン。ピンクというからには桃色遊戯のイメージが先行するのは道理として、どうしてサロンなのかがいまだによく僕には理解できません。
 
 
 かつて僕が抱いていたピンサロ(ピンクサロン)のイメージは、薄暗い店内に細かく仕切られたブースがあって、赤色ライトのなか、襦袢姿のおねえさんが接待するというアレでした。いまでもそういう店はあるのかもしれませんが、現代の性風俗はもっと具体化されております。僕は入ったことがありませんが、雰囲気とかコスプレに近い刺激を求めるならイメクラ(イメージクラブ)、ランジェリー姿のおねえさんと飲みたいならランパブ(ランジェリーパブ)という具合に、ピンサロがルーツではなかろうかと思えるお店が繁盛しているようです。
 
 おそらく読者の皆さんは、ピンサロのサービスに興味があろうかと思います。知ってしまえばつまらぬものですが、知らないといらぬ想像が働くのも人情というものでしょう。簡単に説明すれば、女の子が男のペニスから精子を抜き取る作業がメインであろうと思います。かつてはシースルーのキャミ姿で接待する女の子相手に酒を飲み、最後にスコっと抜いてもらうのが常道だったと思うのですが、どうやら近年のピンサロというのは、「前戯なしにいきなり挿入」という方向へ向かっているようです。
 
 薄暗い店内は昔と変わらないのですが、リズミカルな音楽が流れ、あたかもそれに呼応するようにそこここのブースで体を上下する女たち。もちろん本番ではなくてフェラチオでのサービスですが、店員に案内されるままに各ブースの脇を通るたび、そこで繰り広げられている客と女の子との痴態が目に入るのですから、なんとも妙な空間かもしれません。
 
 サービス時間は3〜40分といったところではないでしょうか。その時間すら定かでない気はするのですが、桃色遊戯をやるには少々物足りない時間だと僕には思えます。けれどそれが繁盛しているということは、短時間で欲望を処理することに合意する男衆が増えてきたということで、なにやら現代の若者の性行為に対する考え方を裏付けるようにも思えてきます。
 
 
 手短にすっきりしたいなら、金かけずに自分でやれば?という気もしなくはないのですが、それはそれ、これはこれということになるのでしょう。夜の街を徘徊する男衆がどんな気持ちでそぞろ歩いているのか知りませんが、僕のなかには、若い頃から「裏世界のいけないものをみてしまう誘惑」のようなものがありました。
 
 僕が住むエリアは、東京でも外れのほうでして、都市計画的には「エッジ」と呼ばれる風俗が密集しやすい地域でもあります。地方からきた人たちにはわかりにくいようですが、都内に住む友人などには、「あんな危ないところでよく遊べるな」と妙に感心されたものです。確かに危ない人たちの溜まり場ですし、ちょいと離れたところには某隣国系マフィアの根城もあるとききます。同窓生にそっち系のヤツもいたりして、それはそれで結構面白い……は、話が逸れますね。
 
 朱に染まれば赤くなるなんていいますけど、ここで生まれ育った僕にとっては、周囲が危ないというエリアでもそれほど怖いと感じたことはありませんでした。もちろん、イケナイコトをすれば怖いです。外道をやっては、どこの世界でも平気で生きていられないのと同じです。されど裏世界に少し顔を突っ込んでみると、ことのほか人情に厚い方々が肩で風きって歩いてたりして、僕にとってはそれも不思議と馴染める気がするわけです。
 
 そういう環境の「せい」にするつもりはありませんが、地元の人でも避けて通るような路地を、学生時代から平気で歩いていました。周囲からは「勇者だ」と馬鹿にされましたが、いま振り返ると当たらずも遠からじであったかもしれません。なにがそこまで若い頃の僕を駆り立てたかというと、いわずと知れた「いけない世界」への興味でしょう。女が欲しかったというよりは、そういう空気に包まれることが好きだったような気もします。
 
 
 現代のピンサロを、僕はあまねく訪ね歩いたわけではありません。けれどそこには、かつてあった「空気を楽しむ」遊びは、おそらく失われているのではなかろうかと想像しています。需要と供給のバランスというのは、風俗産業にこそある言葉だとも思えるのですが、だからこそ、短絡的な店がはやるのをみるにつけ、これでいいのかなと首を傾げずにはいられないんです。
 
 「わかっちゃいるけど、やめられない」と昔誰かが歌っていましたが、男衆の欲望を満たすべく変貌を遂げてゆく風俗産業には、男の本質を気づかぬうちに変化させている麻薬のようなものが秘められているのかもしれません。


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ヒロイ