| 2003年12月11日(木) |
【番外編】既婚者恋愛の正当性 |
恋愛という感情の本質を考えたとき、はたしてそこに、既婚者であるという制約はどのように作用するのだろうか。既婚者が伴侶以外の相手と恋に落ちることを、人はわかったような顔でモラルに反するというけれど、人間の核心は、人生の真実は、モラルだけで推し量っていいものなのだろうか……。 日本という国に生まれ、ある程度の幅はあるものの共通の価値認識を持つ社会に組して生きている以上は、そこにルールやモラルが必要であることは当然だと思います。そういう意味では、既婚者が恋愛する行為に正当性を見出そうなどということは、至極馬鹿げた無謀な行為なのかもしれません。 既婚者恋愛を語ることすら否定する方がおられるのも事実ですし、僕自身、過去に自分が書いたコラムに対して、「不倫を助長するようなことは書かないでください」と女性からお便りを頂戴したこともありました。けれどその後も、僕は書き続けています。助長するなどという気持ちは更々ありませんし、ましてや弁明するつもりもありません。現実から目をそむけるような行為は、僕が考える物書きの道にはありませんし、むしろそこから人間の本質を探り出すことのほうが、遥かに賢明であると感じられるからです。 人の心を裏切るのはいけないことです。場合によっては、到底許されない行為となることも少なくないでしょう。されど、彼が、彼女が、その道を選ばざるを得なかった心の背景を知らずして、誰が彼らを責められるでしょうか。僕はね、夫や妻である前に、父親や母親である前に、ひとりの人間であることを書きたいと常々思ってきました。それは決して「人間の権利を盾にする」のではなく、「自分も相手も同じ人間である」という原点に立ち返って物事を考えて欲しいという願いでもあるんです。 二月末から三月にかけて、延べ五回のシリーズで公開した「既婚者恋愛の正当性」には、じつに数多くのアクセスをいただき、感想等のお便りも沢山頂戴しました。あれやこれや書きましたけど、僕があそこで表現したかったことはただひとつ、「人生は誰のためでもない、自分自身のためにあるんだ」ということでした。 本編では「ある人生」と題して、ある女性のケースを紹介しましたが、あれはフィクションなどではなく現実です。僕がその場を目撃していたわけでもありませんので、断言するのは少々乱暴かもしれませんが、その後も幾つか似たような経験をされた方の話を耳にしていますし、あれ以上のひどい生活を送っている方の声も聞きました。コラムでは僕自身多少「容赦しちゃったかな」という柔らかい表現であったように思い返されるのですが、現実とは驚くほど醜く辛らつなものなのかもしれません。 結婚し子を授かったならば、その子の行く末にある程度の責任を親は持つべきだと僕は考えています。そういう意味では、本編に登場した女性が娘のために自分の人生を送ろうと考え至った経緯に、胸をなでおろすような心境となったのは事実です。されど彼女が、「娘が成人したら、もう自分は死んでも構わないって真剣に思ってた」と続けたとき、それでいいのだろうかと思いました。 生き物の最終目標は、種を存続させることなのかもしれません。異性と交配し子を成すことで、自身の生命の存在を確認する。それは人間にとっても、無意識のうちに体に刻まれている使命のようにも思えます。だからといって、それのみで人生を終えようとする姿には、やはりあまりに悲しいものが多く残ってしまいます。 彼女が思い至った「女としての人生」が、その後どのように展開していったかを、じつは僕はしりません。けれどそれは、決して誰から批難されるものでもなく、彼女の人生という道のりの中では、極めて賢明な選択であったろうと僕は推測しています。不倫とか不義とか、世の中には既婚者が恋愛した際に用いる言葉がいくつかありますが、そんな言葉で人生の何たるかを言い尽くして欲しくなどありません。極めて不愉快です。 ただ悲しいかな、世の中には一方で、そういう人生の背景を持たずに「いい気になってる」馬鹿が大勢いるのが現実でもあるでしょう。だから真剣に人生に悩む者が、より苦しい立場へと追い込まれてしまうようにも感じられます。人間は愚かな生き物だといにしえの賢者が申したそうですが、つくづくそうかもしれないと感じ入ってしまう自分が、また悲しいですね。 隣の芝生は青く見えるといいます。人生においてそのような場面は幾度となく登場し、人はそこで繰り返し悩み苦しみ、そして過ちをおかすこともあるでしょう。けれど僕は、それを白黒はっきりさせるような視点ではみたくありません。それは、経験が人生にとっては何よりの師であって、そこから自身が身をもって手にするものこそが、先々の人生を豊かにしてくれると信じているからです。 間違いをおかさないよう努めることは大切かもしれません。されどそれが、本当に間違いであるのかを見極めることのほうが、僕は遥かに大切だと思っています。人間にはとても素晴らしい能力が備わっています。それは「許す」という心です。どうかその「許す」という深い愛情をもって、既婚者恋愛の核心を見極めてみてください。そこにはきっと、ひとことでは言い尽くせない人間の奥深さと真実が、小さな輝きをみせくれると僕は思いますよ。
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