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2012年05月08日(火)
「仮にあなたが1980年からゲームを作っていたら、『スーパーマリオブラザーズ』や『ドラゴンクエスト』を作れたと思う?」

『桜井正博のゲームを作って思うこと』(桜井正博著・エンターブレイン)より。

(『ファミ通』2010年4月1日号に掲載された桜井さんのコラム「初めの一歩と競争と」の一部です)

【激しい競争原理の中、勝てるわけがないと思う。そう考えるのは、賢いというべきなのかどうか?
 現役の開発者になったとしても、蔑みのような愚痴をあちこちで聞きます。人気作だから売れて当たり前だとか、そうじゃないから自分たちが作るものは売れないとか。売れることがわかっているから、宣伝を多く打ってもらえるとか。
 そういう人たちにこそ言いたい。「仮にあなたが1980年からゲームを作っていたら、『スーパーマリオブラザーズ』や『ドラゴンクエスト』を作れたと思う?」と。
 YESとは言えないでしょう。人気シリーズは、最初のオリジナルが独創性を放ち、そのときの”競争”に勝ち抜き、かつファンに支持されたからこそ生き続けていることを忘れてはならないと思います。逆に言えば、どんな人気シリーズであっても、誰かが何もない状態から最初のオリジナルを作ったということ。
 ゲーム作りはどう転んでも競争です。各開発者は選手であって、みずからのワザと互いのチームワークで高みに上っていくわけです。選手だから、隣りの人より優れようとするふだんの努力を忘れてはならない。一方で、隣りの人との協力を大事にしなければならない。勝ち馬に乗ろうとすれば、誰もにも勝つことができません。乗ったものを、勝ち馬にするんです!
 わたしはふだん、競争で物事を計るのは反対なのですが、新社会人や新入生のために書いてみました。いい季節ですしね。】

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 桜井正博さんは、『星のカービィ』シリーズや『大乱闘スマッシュブラザーズ』などの作品を持つ、日本を代表するゲームデザイナーのひとりです。最新作はニンテンドー3DSの『パルテナの鏡』。
 ちなみに、このコラムには、『テトリス』の写真に「これを売ろうとしたのも、当時は相当な冒険だったと思うのですよ」というコメントが添えられています。
 たしかに、いまとなっては、『テトリス』は売れたのが当然というふうに記憶が改変されてしまっているのですが、『テトリス』がはじめて日本で発売されたときには、「こんなシンプルなゲーム、わざわざ家庭用ゲーム機やパソコンでやる必要あるの?お金出して買う人がいるのだろうか?」なんて僕も思いました。
 ところが、『テトリス』はシンプルであるがゆえに多くの人に支持され、大ヒットゲームとなったのです。
 ここで桜井さんが例に挙げておられる『スーパーマリオ』だって、最初に発売されたときにはこんなに面白いゲームで、歴史に残るなんてプレイヤーたちは予想していなかったし(最初に遊んだ時には、背景だと思っていた土管に入れたことに驚きましたが)、『ドラゴンクエスト』も、海外の歴史的RPG『ウルティマ』の劣化コピーのような印象を持っていたものです。

 「歴史的な大ヒットゲーム」の多くも、第一作から順風満帆なわけではありませんでした。
 「シリーズ作品の続編じゃないと売れない」のは市場の事実なのかもしれないけれども、たしかに、どんなシリーズ作品にだって、「最初の作品」があります。
 そして「最初のオリジナルに独創性があった」からこそ、シリーズ化されることのなったのです。
 大部分のゲームデザイナーは、1980年からゲームをつくっていたとしても、『ドラゴンクエスト』をつくることはできなかったはずです。
 逆に、堀井雄二さんがもっと若かったら、この2012年からゲームをつくったとしても、「オリジナリティあふれるゲーム」をつくってみせたのではないかと思います。

 勝ち馬に乗ろうとすれば、競争が激しく、ようやく乗れたと思ったときには、レースが終わっているかもしれません。
 たしかに、大事なのは「乗ったものを、勝ち馬にする」ことなのでしょう。
 どんなに厳しい状況でも。「戦わなければ、勝てるわけがない」のだし。