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2011年08月13日(土)
あるファミリーレストランとディズニーランドの「おふたりさま」への接客

『神様のサービス』(小宮一慶著・幻冬舎新書)より。

【家族で、ファミリーレストランに食事をしに行ったときの話です。
 そのファミレスのある場所は、私がこの近くに引っ越してきてから18年の間にお店の名前が4回変わっています。あまり長続きしないお店が多いのは、駅から離れ、住宅地の片側一車線の道路沿いにあるなど立地があまり良くないことが原因のひとつだと思います。また、これまでの3つのお店も、週末は近所からや車で来る家族連れで混雑しても、平日の夜に集客できないことがネックになっていました。
 しかし、現在営業している4店舗目のこのファミレスは、平日どころか週末もさほど混んでいる気配がありません。どうしてかな? と最初は思っていましたが、理由はほどなく分かりました。接遇が悪いからです。
 例えば、こんなこともありました。私たち家族が食事をしていたら、新しいお客さまが来店されました。お客さまは若いご夫婦で、ご主人が生後まで数カ月であろうかわいらしい赤ちゃんを抱いていました。すると、年輩のウェイトレスさんは「いらっしゃいませ」と言ったあと、なんて続けたと思いますか?

「おふたりさまご来店です!」

 と言って、お客さまを席まで案内したのです。
 おふたりさま?
 私はわが耳を疑いました。何かの間違いかと思いました。この店では、入り口のウェイトレスさんが人数を叫ぶと、それを聞いていた別の店員さんがお茶やおしぼりを持ってくるようになっています。その後、別のウェイトレスさんが運んできたお茶もおしぼりも当然2名分でした。この瞬間、私は「このお店は近いうちに間違いなく潰れるな」と確信しました。

(中略)

 このファミレスと好対照なのが、オリエンタルランドが経営する東京ディズニーランドのなかにあるレストランです。東京ディズニーランドは、「お客さま志向」が徹底していることに定評があります。今からお話するこのレストランの対応の事例は、以前他の本でもご紹介しましたが、「お客さまの立場に立つ」というのがどういうことかを示すお手本のような好例です。私はこの話を聞いたときに本当に感動しました。
 ある若いご夫婦が、東京ディズニーランドにやって来て、お昼どきにレストランに入ったときのことです。ウェイトレスさんは、当然、2人掛けの席に案内しました。
 すると、ご夫婦は、「お子さまランチを2つください」と注文しました。ウェイトレスは、マニュアル通りにこう答えました。
「お客さま、お子さまランチは6歳以下の子どもさま向けのものです。大人の方には量が少ないと思うので、別のメニューはいかがですか?」
 ここで、明らかに落胆された様子のご夫婦を見てウェイトレスさんはこう聞きます。
「お客さま、お子さまランチを注文なさるのは何か理由があるのですか?」
 すると、ご主人が、生まれてすぐに亡くなってしまった子どもがいたこと、その日は、亡くなった子どもの誕生日であること、東京ディズニーランドに3人で行くのを夢見ていたこと、生きていたらお子さまランチを食べさせてあげたかったことを話しはじめたのです。
 ここでウェイトレスさんはどんな対応をとったと思いますか?
「失礼いたしました。お客さま、ご案内するお席を間違えておりました」と、2人をファミリー用の席に案内したのです。さらに、ファミリー用の席のひとつを子ども用の椅子に変更し、亡くなった子どものためのお水も含め、3つのコップを並べました。そして、お子さまランチも3つ運ばれてきたのです。
 ご夫婦はどれほどうれしかったことでしょう。
 これこそが、「お客さまの立場に立った」サービスです。
 お客さまの事情を察したとたん、たとえマニュアルから外れることになっても、最も良いと思える選択をしたのです。機転の利く素晴らしい対応だと思います。
 お子さまが目の前にいるにもかかわらず「2人分」と平気で言うファミリーレストランと、お子さまがそこにいなくても「3人分」を用意できる東京ディズニーランドのレストラン。その接客は天と地ほどの差があるだけでなく、企業の根本的な姿勢の違いを表しているのです。】

〜〜〜〜〜〜〜

 たしかに、住宅地の道路沿いのファミリーレストランと、ディズニーランド内のレストランでは、お客が求めるサービスのレベルが違う、というのはあるのでしょう。ディズニーランド内のレストランは、少し割高でもありますしね。

 このファミリーレストランの対応には、さすがに僕も驚いてしまいました。
「小さな子どもと一緒の親の気持ち」がわかっていないにもほどがあるから。
 親にとっては、赤ん坊でも、立派な「おひとりさま」です。
 僕も親になってみてはじめてわかったのですが、小さな子どもと一緒だと、周囲に気を遣う面もありますし、けっこう大変なんですよね。
 店にとっては、赤ん坊がお金を使ってくれるわけではないし、生まれてすぐだと、「お水もおしぼりも使わないに決まっているから、出さないのが合理的」だと判断してしまうのかもしれません。
 でも、親にとっては「だからこそ」形だけでも、ひとりの人間として扱ってもらえると嬉しいんですよね。子どもに対してちゃんとサービスしてくれると、それだけで、かなり好感度が上がるのです。
 逆に、自分自身がどんなにサービスされて、子どもが無視されると、すごく印象が悪くなってしまいます。
 そう考えてみると、僕がいままでに行った「良い店」は、親が「そこまでやらなくても……」と感じるくらい、子どもにもサービスしてくれていました。

 このディズニーランドのレストランの話は、もはや「伝説」となっています。
 「大人がお子さまランチを注文してきた場合」も、「子ども用メニューだからダメです」と答えるのではなく、「お客さま、お子さまランチは6歳以下の子どもさま向けのものです。大人の方には量が少ないと思うので、別のメニューはいかがですか?」というお客に恥をかかせないように、やんわりと他のメニューの注文を促すのですね。

 この「3つのお子さまランチ」って、「ディズニーランドだからこそ、求められるサービス」なのでしょうけど、こういう状況はマニュアルには載っていなかったはずですし、この店員さんがやったことって、実は、「このご夫婦をファミリー向けの席に移したこと」と「お子さまランチを3つ持ってきたこと」だけなんですよね。
 ディズニーランドだからできた、と考えがちだけれど、このサービスそのものは、どこの店だって可能なことのはず。
 「だって、ディズニーランドの話だろ?」と思考停止してしまうのは、あまりにもったいない話です。

「あまりに子ども優先の日本の親のありかた」には異論もあるのでしょうが、少なくとも、店の立場からすれば、「子どもをターゲットにして、好感度アップを狙う」というのは、ひとつの戦略ではありますよね。
 水一杯、おしぼりひとつでこんなに印象が違うのですから。