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2011年01月07日(金)
ソフトバンクのCMで、「お父さんが犬になった理由」

『カンブリア宮殿<特別版> 村上龍×孫正義』(村上 龍 (著), テレビ東京報道局 (編集)・日本経済新聞出版社)より。

(ソフトバンクの「お父さん犬」のCMについて)

村上龍:今はもうすっかり有名になって親しまれているお父さん犬のCMですけど、最初、僕はあれを見て、結構微妙だなと思ったんです。面白がる人もいるけど、ふざけすぎだと思う人もいるかもしれない。孫さんがあれを見て、これでいこうと思ったのは、どういうところだったんですか。

孫正義:うちは矢継ぎ早に新しい料金プランだとか、サービスを始めるのですが、ソフトバンクのホワイトプランに、ファミリープラン、家族割というのを出すということを急きょ決めたのです。二週間ぐらいでCM作品を準備しないと間に合わない。
 それでホワイトファミリー、あの家族になったんだけど、お母さん役を誰にするか、娘役を誰にするか、お兄ちゃん役を誰にするかって、そこまでは、ああだこうだとやって決まったんです。で、最後に期限切れの一日前で、お父さん役を誰にしようかと、いろいろ候補を挙げたら……。

村上:一日前だったんですか?

孫:ええ。それで候補を挙げたのですが、大物の男優さんは、時間的にもう交渉は無理です、と言われてしまったんです。予算の問題以前に、時間的に無理だと。

小池栄子:一日前ですもんね。

孫:それで、もともとあの家族には、ペットとして犬を入れておこうというところまでのプランはあったんですよ。

小池:そうだったんですね。

孫:それで、犬が決まった、お母さんが決まった、娘とお兄ちゃんも決まった。最後にギリギリで、お父さんをどうしようかというのが、もう時間切れになってしまったんです。かといって中途半端なお父さんは嫌だと。それで、犬になった。

小池:中途半端じゃなく、思い切った決断でしたよね。

村上:結構、いい加減な理由だったんですね。

孫:CMプランナーの澤本嘉光という天才的な男がいるのですが、彼が、「もう仕方ない、社長、犬でいきますか」と言って、「ん?」と思ったのですが、「面白いかもしれんな」ということになったんです。

村上:そんな感じで決まったんですか。】

〜〜〜〜〜〜〜

 いまや、ソフトバンクのCMといえば「お父さん犬」。
 先日、長崎のハウステンボスに行ったときに、「1月某日に『お父さん犬』が来園!」という大きなポスターがありました。
 いくらなんでも、犬ですよ犬。似たような犬を連れてきても、誰も気づかないかもしれない。
 でも、僕はそれを見て、「おおっ、お父さん犬をナマで見たい!」と思ったんですよね。
 いやほんと、そこらのタレントさんよりも、よっぽど集客力があるのではないでしょうか。

 これは、テレビ東京の『カンブリア宮殿』のなかで、孫正義社長が、司会の村上龍さん・小池栄子さんにソフトバンクのCMについて話しておられたものの一部なのですが、僕はあのCMを最初に見たときには、「こんな不条理系のCMが、携帯電話会社の幅広い世代の顧客に受け入れられるのだろうか?」と思いました。
 このCMは、予想以上に人気となり、結果的には大成功を収めたのですが、「情報」を扱い、「信用」が重視される携帯電話会社のCMとしては、かなりの冒険だったはずです。
 「こんなふざけたCMの会社、なんとなく信じられないな……」と思われてしまったら、もうおしまいなわけですから。

 この「『お父さん犬』誕生秘話」を読むと、あのCMは、ソフトバンクにとっても、予定外というか、スケジュールの都合での「苦肉の策」だったようです。
 ただ、お父さん役を人間のタレントにするのであれば、前日に考えても間に合わないことはわかりきっているはずですから、これは、CMプランナーの「作戦」だったのかもしれませんが。
 いきなり「お父さんは犬にしましょう」と言っても、なかなかそのプランは通らないはずなので、「そうせざるをえない状況」をつくった可能性もあります。
 それでも、ソフトバンクという大会社のお金やコネを使えば、「それなりのタレントを連れてくる」ことは絶対に不可能ではなかったと思われますので、「お父さん犬」のインパクトに魅かれるところが、孫社長にもあったのではないかなあ。

 このやりとりの後で、村上龍さんの「自信をもって『やろう』という感じだったのですか?」という問いに対して、孫社長は「まあ、でもそこは賭けですよね。普通のことをやっていても、結局、目立たないし、効果は少ない。どうせチャレンジャーですから」と答えておられます。
 「お父さん犬」は、ソフトバンクが「チャレンジャー」だったからこそ生まれたのです。
 たぶん、NTTドコモには、やりたくてもできないCMだっただろうなあ。