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2009年09月03日(木)
「いい記事も悪い記事もダメ。論議になる記事が売れる」

『日本を貶めた10人の売国政治家』(小林よしのり編・幻冬舎新書)より。

(この新書に収録されている「座談会・売国政治家と呼ばれる恥を知れ」の一部です。参加者は、長谷川三千子、高森明勅、富岡幸一郎、勝谷誠彦、小林よしのりの各氏)

【勝谷誠彦:だから、小泉さんという人はある種のトリックスターなんですよ。物語の中のトリックスターは秩序をさんざん乱して去っていくんですが、その後には何も残らない。しかし火をつけて騒ぎまくったことで、それまで見えなかったものが見えてくる。

小林よしのり:そこに論理があったら本当に良かったんだけどね。それと、靖国参拝については、最初から8月15日に行っていれば評価できた。ただ、靖国神社の参拝者を増やした部分はたしかに評価できると思うよ。

高森明勅:靖国神社に集まる若者たちに「靖国神社との接点は何だったの?」と訊くと、小林さんの『戦争論』と、新しい世代では小泉参拝の影響が強い。外圧があり、マスコミがさんざん取り上げたので、逆にあれで「そんな問題があるのか」と興味を持った若者が多いんです。

富岡幸一郎:もう一つ評価するとすれば、対中ODAを引き締めたことも挙げられますね。中国は悲鳴を上げたくなったでしょうから。

長谷川三千子:それと、北朝鮮に乗り込んで拉致の事実を明らかにしたのも小泉さんだった。

勝谷:ただ、この人は全部やりっ放しなんですよ(笑)。それ以前に、やったときの詰めが甘い。なぜ、最初から8月15日に行かなかったのか。なぜ、平壌宣言に拉致の文言を盛り込まなかったのか。まあ、本人はA4一枚分の説明しか覚えられない人らしいから、周囲の人間がもうちょっとそこを支えれば、立派な政治家になったかもしれませんが。

長谷川:よく好感度調査で「好きなタレント」「嫌いなタレント」の両方とも上位に入る人がいますけど、小泉さんもそういうタイプなんでしょうね。

勝谷:河野(洋平)や村山(富市)は絶対に「好きな政治家」のほうには入らない。われわれだって、こうして河野や村山の何倍も小泉について喋っているわけです。悔しいけど、これが政治家の人気というものなんですよ。私が『週刊文春』の記者時代、よく花田編集長に言われたのは、「いい記事も悪い記事もダメ。論議になる記事が売れる」ということ。小泉人気もまさにそうですよね。いまだに、みんな小泉のことが気になって仕方がない。】

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 今回の衆議院選挙では自民党は「歴史的大敗」を喫し、「小泉改革によって、『格差社会』がより酷くなった」ということが繰り返し語られていますが、前回の衆議院選挙では、その「小泉劇場」が圧倒的に支持されていたんですよね。
 「後期高齢者医療制度」など、「小泉改革」が後世に残した「宿題」はたくさんあるのですが、北朝鮮の電撃訪問などは、小泉さんだからこそできたような気もしなくはないのです。舞台裏を知る人からすれば、「誰が首相でも同じだった」のかもしれないけれど。

 僕自身も、「小泉改革」は、結局ごく一部の「勝ち組」をさらに勝たせる結果にしかならなかったと思いますが、その一方で、小泉さんというキャラクターに関しては、やっぱり嫌いになりきれないのも事実です。とりあえず、リアルタイムで体験した小泉首相の時代は「政治が面白かった」。

 勝谷誠彦さんが、「悔しいけど、これが政治家の人気というものなんですよ」と仰っていますが、まさにその通りなんでしょうね。好きな人も嫌いな人も、とにかく小泉さんに関しては、何か言わずにはいられない。

 『週刊文春』の花田編集長の言葉、「いい記事も悪い記事もダメ。論議になる記事が売れる」を読みながら、僕は最近いろんなところで採り上げてもらった、この「よしもとばななさんの『ある居酒屋での不快なできごと』」を思い出していました。
 あれはまさに、「読んだ人がつい何か言いたくなってしまう、『議論になる記事』」だったのではないかと。
 僕は正直、あれがあんなに話題になるとは予想していなかったのですが、ネットではとくに「何かを教えられる記事」とか「インパクトのある暴論」よりも、「自分もひとこと言って、参加したくなる内容」のほうが、「売れる」ということを思い知らされました。
 実際は、そういうのを狙って「仕掛ける」のはかなり難しいのでしょうけど。

 小泉さんの場合は、どこまで「狙ってやっていた」のかは、本人でさえよくわからないんじゃないかという気もします。
 こういうのは、あまりにあからさまだと、みんな立ち止まってくれませんしね。