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2009年07月17日(金)
『ファイナルファンタジー11』で痴話げんかが多い理由

『ネトゲ廃人』(芦崎治著・リーダーズノート)より。

(日本を代表するオンラインゲーム『ファイナルファンタジー11』についての話)

【あるベテランの女性ゲーマーが、こんな話をしてくれた。
「6人で敵を倒しに行くので、他の人と技術的なレベルが乖離すると、一緒にゲームができなくなるんです。そのために、こちらのレベルが上がるのを待ってくれる男性が現れたりする。すると、『この人、私のことを気にしてくれているんだわ』と、すぐにわかります。ほかにも、『これ、ゲームのクリアに必要だからね』といって、武器や装備品をくれたりする。ものをあげるって原始的な愛情ですよね。自分のことを気にかけてくれているって、すごくわかる。『好きだよ』って言われなくても、ゲーム中に相手の気持ちがわかるんですよ。ドキドキします」
 これは、実際にあった彼女の知り合いの話だ。
 8年間、同棲していたカップルがいた。男性のほうがゲーマーで、女性はゲームをやっていなかった。彼のライフスタイルは結婚しない主義。彼女のほうが結婚を望んでいた。
 ある日、彼が、「コントローラーで、簡単にできるからやってごらんよ」と、『ファイナルファンタジー11』を彼女に勧めた。
 ところが、ゲームを始めて、ネット上で出会った男性にすぐに口説かれ、彼女は出て行ってしまう。
「結果的にすぐに破局してしまうんですけど、ゲームを始めて2、3週間で、ネット恋愛に走るケースがすごく多かったんですよ」
 また、こんなケースもあった。
「知っている若い男の子が、旦那さんのいる女性を好きになったんです。主婦は暇だから、昼間から若い男の子の悩みを丁寧に聞いてあげるんですよ。ゲームをやる子は彼女のいない人が多いから、ついつい年上の主婦にはまる。奥さんのほうも旦那さんがネットゲームを見てないのをいいことに火遊び感覚で、付き合う。二人はプラトニックでしたけど、じっさいに外で会っていましたね。男の子のほうは、もう誰も目に入らないくらい本気で好きになっていた」
 それにしても『ファイナルファンタジー11』で痴話げんかが多いというのは、何が原因だったのだろうか。
 初期の頃から、ネットゲーム事情に詳しい人の話である。
「米国製のネットゲームは、ゲーム内で友だちが、今どのへんで何をしているかが、わからない。ところが日本のゲームは検索機能が付いていて、ゲーム内のどこにいても、誰と一緒にいるかが発見できる。『ファイナルファンタジー11』では特に、どのエリアで、どのレベルで誰が何をしているか全部わかるようになっている。推測ですが、ゲームクリエーターは親切心で、友人がどこで遊んでいるかわかるような機能を作ったのでしょう。ところが、実際の使われ方は、そうじゃない。相手がどこで何をしているのかを監視するために使われていた」
 ユーザーに、ネット恋愛中のカップルやリアルの恋人同士、現実の夫婦、恋愛目的にゲームに参加するファンが多かったせいで、よくこんなチャットが飛び交っていたという。
「俺の彼女に、手を出すな」
「私が仲良くしているAさんと一緒にいるなんて許せない」
「おまえ、ほかの男と何している!早く帰って来い」
 キャラクターはゲームの中で動き回っている。だが、キャラクターを操作しているのは、所詮、生身の人間同士だ。ネット恋愛だけでは飽き足らず、リアルで不倫に走るケースも稀でなかった。】

〜〜〜〜〜〜〜

 これは、あくまでも「極端な例」なのかもしれませんが、こういう話を読むと、「オンラインゲームも、所詮、現実の延長でしかないのだ」ということを思い知らされます。むしろ、「どんなにあからさまな態度をとっても、キャラクターを消してしまえば良いから、リアルよりも正直に行動できる」という面もありそうです。「レベルが上がるのを待ってくれる男」や「武器や装備品をくれる男」なんて、「下心アリアリ」じゃないか!としか思えないのですが、「ゲームの中だったら、純粋な愛情表現だと感じる」のでしょうか?

 この話のなかで、もっとも興味深かったのは、「日本製とアメリカ製のオンラインゲームの違い」でした。
 僕の感覚からすると、アメリカ製のゲームに「友だち検索機能」がついていないことのほうが不思議な気もするのです。
 やっぱり、毎回知らない人たちとコミュニケーションをとってパーティを組んだり、毎回ゲームを終えるたびに次の待ち合わせをしたりするのは、ちょっとめんどくさいし、何よりも、せっかく友だちになったのだから、ずっと一緒にゲームできればいいな、と思うでしょうから。
 でも、その機能を実際に搭載してみると、ある種の人たちは、それを「監視」に使うようになっちゃうんですね……
 それでゲーム内の世界が狭苦しくなってしまうのであれば、いっそのこと、「検索機能」そのものをやめてしまえばいい、はずなのですが、一度そういう世界を体験してしまうと、それが無い、「友だち(あるいは恋人)がゲーム内で何をしているのかわからない世界」というのは、不安でしょうがなくなってしまうのかもしれません。
 携帯電話が登場したとき、「どこにいても電話がかかってくるなんて、束縛されている感じでイヤだ」と言っていた人がたくさんいましたが、「持っているのが当たり前の世界」を体験してしまうと、「携帯電話を持たないこと」のほうが、よっぽど忍耐力かポリシーを必要とするようになりました。
 たぶん、この「友だち検索機能」も、「あるとめんどくさいけど、無くなると不安になる」のでしょうね。

 ここまで「現実的」になると、「みんな、何のためにゲームをやっているんだろう?」と、ちょっと疑問にもなるのですが。