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2009年06月26日(金)
インターネット・カフェの「微妙にずれている新刊書籍」

『尾道坂道書店事件簿』(児玉憲宗著・本の雑誌社)より。

(広島県東部の書店チェーン「啓文社」に勤める児玉さんの本と身辺についてのエッセイ集から)

【啓文社にとってのインターネット・カフェ一号店は、広島市西区。通行料の多い道からは少し入った場所になる。幹線道路沿いだったら書店を出店していただろう。少し入ったわかりにくい場所なら会員制の商売をすれば良いということになって、インターネット・カフェとレンタルの複合店を作った。
 ちなみに、翌年のインターネット・カフェ二号店は、書店との複合で出店した。
 インターネット・カフェのノウハウのない啓文社は、フランチャイズで出店することにした。コミックは約3万冊。コミック以外にも新聞、週刊誌、雑誌、新刊書籍などがあり、自由に読めるようになっていた。
 しかし、ここに用意している新刊書籍は何だかおかしい。ひと昔前のベストセラーや、売れ筋からは微妙にずれているものが多かった。どういう基準で選本されているのだろう。フランチャイズ本部のSV(スーパーバイザー)に訊いてみると、こんな答えだった。
「ベストセラーは、みんな書店で買ってしまうでしょう。だから、話題になっているからちょっと中を見てみたいけど、買うのはもったいない、という本を揃えるのがコツなんです」
 なるほど、そう聞いてあらためて眺めてみると確かにそんな感じがする。タレントが書いたエッセイ、お笑い芸人のネタ本、アイドル写真集や占い本なども並んでいる。思わず手に取りたくなるものや時間潰しにはもってこいの本が棚に収まっていた。
 本を扱う商売は、街にある新刊書店だけでなく、古書店、インターネット書店、漫画喫茶、コミックレンタルなど、時代とともに多様化している。それぞれがそれぞれの売り方をし、お客さんはそれを使い分ける時代に入っている。重なる部分もあるが、異なるターゲットに対し独自の提案をしている。買うのはもったいない、という本を揃える。これもノウハウの一つなのだと感心した。】

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 僕は数回しか利用したことがないのですが、インターネット・カフェの最大の「売り」は、高速インターネット環境(とはいえ、これはもう家庭レベルにもかなり浸透してきています)と充実したマンガ、ということになるのでしょう。インターネット・カフェで、新刊書を手に取る人というのは、そんなにいないのではないかと思います。
 にもかかわらず、チェーン店には、「インターネット・カフェ向けの新刊書籍を選ぶノウハウ」がちゃんとあるみたいです。とりあえずベストセラーランキングに載っているやつを上位からそろえておけばいい、とか、どうせあんまり読まれないんだから、適当に並べとけ、というわけでもないんですね。
 たしかに、本のなかには、「お金を出して書店で買うほどではないけど、中身は覗いてみたい」というものが、けっこう存在しています。図書館で借りるというのもめんどうだし、地方都市の図書館には入らないような本の場合もあるでしょう。書店で全部立ち読みするのは大変だけど、買って帰ったらすぐに読み終わってしまいそう……

 たしかに、こういう本がインターネットカフェに置いてあったら、つい手が伸びてしまいそうです。いくら読みたくても、村上春樹さんの『1Q84』のような重厚で長い作品は、「読んでる途中で眠くなるかもしれないし、家でじっくり読みたい」ですよね。決められた時間で「元をとる」ことを考えれば、「それなりの定価で、すぐに読み終わってしまうような本」をたくさん読んだほうが得なんじゃないかという気がします。

 同じ「たくさんの本を揃える」にしても、業務形態やお客さんのニーズによって、いろんな戦略があるものだなあ、と考えさせられる話でした。
 本当は、「ブックオフで投売りされている一昔前のベストセラーを大量購入」っていうのが「実情」なのかもしれませんけど。