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2009年04月16日(木)
『ノイタミナ』の苦悩と『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』の逆襲

『創』2009年5月号(創出版)の特集記事「変貌するマンガ市場」の「マンガ原作のアニメ化、実写化をめぐる現状」(中川敦著)より。

(マンガ原作のアニメ化についての各テレビ局の現状を紹介した項の一部です)

【(日本テレビの場合)
 これまで月曜19時台に放送されていた『名探偵コナン』と『ヤッターマン』がゴールデンタイムから撤退。この4月からそれぞれ土曜18時と日曜7時に移行する。これはテレビアニメ全体の苦境を象徴しているように見える。日本テレビ編成局映画編成部チーフプロデューサーの中谷敏夫氏はいう。
「コナンとヤッターマンは、日本テレビ系列の看板アニメですから、確かにさびしい気はします。ただ、苦しい中でもがいた結果、一つのヒントが見えてきた。昨年、話題となったものに8月に放送された『デスノート』の特別番組があります。深夜で放送していたアニメを再編集プラス新作カットという形で放送したのですが、視聴率は11%を超えました。北京五輪の裏だったにも拘わらず、非常に健闘したと思います」
 『デスノート』については、07年8月に放送された総集編も視聴率15%を超え話題になった。人気コンテンツを再利用し、ディレクターズカット版として構成する手法はテレビアニメでは例がない。
「ドラマと比べアニメは腐りにくい。2年続けてゴールデンのタイムテーブル上で“戦力”として一定の結果を出せたことは、地上波民放のアニメの存在意義の一端を感じさせるものでした」(中谷氏)
 一般的にアニメ制作のコストは高く、DVD等のマルチユース展開がないと、CM収入だけで資金を回収することは難しい。通常10年単位で回収できればよしとされるが、最近は不景気のため短期回収を求められるという。必然的に今までとは違った形のコンテンツの有効利用が進められつつあり、コミック原作への関わり方も少しずつ変化してきている。
「これからは、アニメ単体ではなく、ドラマ、映画との連動で考えていくことになるでしょう。出資・回収の構造はそれぞれ違うので、テレビ局の中で一枚岩でやることは難しいですが、一社がトータルで担当したほうが、ライツ処理の煩雑さは軽減できる。これは出版社さんにとっても魅力的ではないかと思います。アニメ、ドラマ、実写映画を複合的に展開することができれば、ある程度の規模にはもっていけると思います。デスノートも単純に映画だけではあそこまでいかなかったでしょう。具体的なことはまだ言えませんが、そうした展開を模索中であることは確かです」(中谷氏)

(フジテレビの場合)
『働きマン』、『ハチミツとクローバー』、『のだめカンタービレ』などをはじめ、放送を終えたばかりの『源氏物語千年紀Genji』も話題を呼んだフジテレビ「ノイタミナ」枠。コミック原作を中心とするラインナップで、若い女性をはじめとする新しい視聴者の獲得に成功した。スタートから丸4年が経過した現在も、視聴率は5%を出すこともあり、同時間帯としてはかなり高い。だが、編成制作局編成部主任の松崎容子氏はこう話す。
「そろそろスキームの限界を感じてきています。視聴率はたまに6%台が出て、うっかりするとゴールデンの番組に勝ってしまうほどですから悪くはありません。しかし、1クール、分野はドラマ、手法はアニメという方針だと、クオリティコントロールの問題もあり短期間ではリクープできないことがわかってきました。DVDの落ち込みは想像以上でした」
 DVDが売れない時代に、1クールで製作費を回収するのは至難の業だ。同枠で放送されていた『怪〜ayakashi』や『墓場鬼太郎』など放送終了後もDVDが売れる枠品もあるが、多くの場合が放送期間内での回収は困難だという。
「ターゲットを限定したコアな作品を作れば別なのですが、『働きマン』や『ハチクロ』など、いわゆるアニメファン以外の方々向けの作品だと、視聴率がDVDの売り上げに比例しないんです」(松崎氏)
 今年4月からの「ノイタミナ」には同社のオリジナル作品『東のエデン』を投入。『ハチクロ』の羽海野チカがキャラクター原案、『攻殻機動隊』の神山健治が原作・監督という注目作だ。同じく4月からはじまるオノ・ナツメ原作の『リストランテ・パラディーゾ』(太田出版)では、フジテレビオンデマンドでの配信なども行う予定だ。
 一方で、放送開始から40周年を迎えた『サザエさん』、同じく20周年を迎える『ちびまる子ちゃん』の存在感が大きくなってきていると松崎氏はいう。
「昨年、『サザエさん40周年スペシャル』を放送したのですが、視聴率は20%を超えました。スペシャルを放送する前は18%台でだったのですが、放送後は20%前後で安定しました。ちびまる子ちゃんの『20周年前祝いスペシャル』も17.2%を記録し、周年事業を兼ねた起爆剤としては成功だったと思います」
『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』などはスポットのCMも高額で、番組が長期的な展開を前提としている。そのためDVDで回収を目指すビジネスモデルとは少し様子が違い、グッズ展開が一つの柱になるという。『サザエさん』と『ちびまる子ちゃん』を合わせると年間1000億円以上の規模に成長した。『サザエさん』のライツは長谷川町子美術館がしっかり管理していたが、時間をかけて調整を重ねた結果、同社でオンリーショップができるようになったという。ライツに関しては今まで手の届かなかったところをいかに開拓するかが更に重要になってきたようだ。松崎氏はいう。
「苦しい状況では長寿番組の安定感が非常にありがたいです。土台がしっかりしているからこそ新しい取り組みにも挑戦できる。コミック原作については、アニメにすべきマンガと、ドラマにすべきマンガをより正確に見極めていかなくてはならないと思っています」】

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 日本テレビの『名探偵コナン』『ヤッターマン』の時間変更により、現在、ゴールデンタイムにアニメを放送しているのは、テレビ朝日とテレビ東京のみになってしまいました。
テレビアニメにとっては、「厳しい時代」はまだまだ続きそうです。
この記事では、日本テレビ、フジテレビの他に、毎日放送、テレビ東京にも取材をされているのですが。これらをあわせて読んでみると、各社とも「アニメというコストがかかるコンテンツで、いかに収益を上げるか?」について、試行錯誤中、というのが現状のようです。
テレビアニメは、スポンサーからのCM料金やキャラクタービジネスで収益を得ていた時代から、低迷期を経て、「CMで稼げなくても、DVDをコアなファンに売る」ことにより、新しいビジネスモデルを構築してきました。
 ところが、アニメDVD(セールス)市場のピークは、『鋼の錬金術師』が大ヒットした2002年から2003年頃で、それ以降はだんだん売れなくなってきているそうなのです。
 ネットでの違法アップロードなどもその原因なのかもしれませんが、対策が強化されている近年も「右肩下がり」の傾向は続いています。

 これまでのテレビアニメが、「通常10年単位で回収できればよしとされる」というくらい気長な商売であったというのも驚きなのですが、最近の厳しい経済情勢によって、そんなに悠長に構えられなくなった、というのが現状のようです。
 とはいえ、製作側としては、急に「すぐに利益を出せ」と言われてもどうしようもないですよね。スポンサーもそう簡単にはつかないだろうし。
 すぐに思いつくのは、「作品の質を下げてコストダウンすること」ですが、それをやってしまっては、視聴者からは見離される一方でしょう。
 
 それにしても、フジテレビの松崎さんの話のなかで、高視聴率を続けているフジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」もこんな厳しい状況にあるというのは意外でした。
 あんなに視聴率が良くても、DVDがかなり売れないと収支がプラスになはらないようになっているんですね。オンデマンド配信などの、新しい試みもなされているようなのですが……

 そんななか、『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』という「定番」の強さがあらためて見直されているようです。
 僕は『サザエさん』の面白さがいまひとつ理解できないのですが、「CMとグッズ販売できちんと稼げる」というのは、テレビ局にとってはまさに「優良コンテンツ」。
 アニメ化された『ちびまる子ちゃん』をはじめて観たときには、「これは、『サザエさん』に対する痛烈なアンチテーゼなのでは……」と思ったのですが、20年経ってしまえば、こちらも「定番」ですよね。

 新しい作品が生まれず、「定番」ばかりが延々と続いていくテレビアニメ界というのも、それはそれでちょっと寂しい気はしますが、この話を読んでいると、新作アニメにとっては「厳冬の時代」がしばらく続きそうです。