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2009年02月26日(木)
『漢検DS』を大ヒットさせた、「戦略PRによる空気づくり」

『戦略PR』(本田哲也著・アスキー新書)より。

「漢字力低下」という空気を、店頭でも活用する 「漢検DS」の成功例という項から)

【「漢検DS」は、年間270万人もの受験者数を誇る検定試験「漢検」の公認ソフト。遊びながら漢字を学べる、ニンテンドーDS向けゲームだ。実際の試験と同じ形式で出題される「チャレンジモード」、手軽に漢字練習ができる「トレーニングモード」、漢字をテーマにしたミニゲームを楽しむ「ゲームモード」などがある。「漢検DS」は2006年9月に発売され、瞬く間に、約30万本を売上げるヒットとなった。このヒットを支えたのは、漢字検定に興味を持つ層やゲーム好きの人たちと推測できるが、「さらに売上を伸ばすためには、もっと一般的なより多くの人たちにアピールすべきだ」と、市場の拡大を狙うキャンペーンが設計、展開された。
 このキャンペーンで、戦略PRによる空気づくりは重要な役割を果たした。
 発売元のロケットカンパニーがとった戦略は、「日本人の漢字力が危ない!」という空気をつくって、それを「漢検DS」のニーズに結びつけようというものだった。
 まず、日本人の漢字力についての実態・意識調査を実施。その結果、「日本人の85%が、漢字力の低下を感じている」「4人に1人の大人が、子供に漢字を聞かれて答えられなかった経験あり」など、オトナたちにとっては耳が痛い事実が明らかになった。
 さっそく、これらの結果をまとめ、マスコミ向けにリリースし、PR活動を展開した。パソコンで文章を書く機会が増えたため、「漢字力が衰えたなあ」と、漠然と感じている日本人は多い。こうした漠然とした不安を裏付ける調査結果は、マスコミの注目を集める。その結果、新聞、テレビなど40以上のメディアが、この調査結果を紹介。12月12日の「漢字の日」(京都の清水寺でその都市にちなんだ漢字が発表される、毎年恒例のあの日だ)にリリースしたことも大きかった。
 こうして、日本中に「漢字力が低下している。どうにかしないとマズイ」というカジュアル世論をつくり、危機感を蔓延させる。これだけでも十分に、「漢検DS」の需要につながるシナリオだが、このキャンペーンがさらに戦略的だったところは、この「空気」を見事に、ゲームソフトを購入する店頭のプロモーションまで落とし込んだ点だ。
 店頭のプロモーションは、12月14日から開始された。実は、2006年12月14日は人気ゲームシリーズ「ポケットモンスター」の新作、「ポケモンバトルレボリューション」(任天堂Wii向けソフト)の発売日だった。一部には、「なにもこんな強力なライバルが新発売される日にぶつけなくても……」という反対意見もあったという。しかし、あえてこの時期を狙ったのは、子連れでゲームショップに来店した親に対し、店頭でプロモーションを展開しようと考えたからだ。
 ここで展開されたのが、「漢字力低下」の報道素材を活用した店頭POPだ。新聞などに掲載された記事を紹介し、「漢字ブーム到来!!」「各メディアが大注目!」と大きく謳った。つまり、世の中でつくった空気を、さらにお店に持ち込んでリマインドさせる作戦だ。これをゲームショップなどの店頭に貼ることで、「そういえば、新聞やテレビで、日本人の漢字力が落ちていると報道していたなあ」と、子どもを連れた親に思い出させようとしたのだ。効果は上がった。ポケモンなどのゲームを買いに来店した顧客に対し、「このままではマズい。子どもにゲームを買うついでに、自分は漢検を買って勉強し直そう」と思わせることに成功したのだ。
 これに、「漢検DS」を模したブログパーツのネット上での配布や、テレビCMなどの施策が連動したことで消費者の興味は高まり、再び売上は急上昇。ついに60万本を突破した。このキャンペーンは、危機感をあおるカジュアル世論づくりと、店頭プロモーションでの活用がキレイに連鎖している成功例だといえるだろう。】

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 ちなみにこの『漢検DS』の発売日は2006年9月28日。テレビ番組の影響による「漢検ブーム」があったのだとしても、売上60万本はかなりの大ヒットです。
 たしかに当時「こんな地味な『お勉強ソフト』が、なんだかすごく売れているな……」と『ファミ通』の売上ランキングを見ながら思った記憶が僕にもありますし、僕も「何かのゲームを買ったついでに」この『漢検DS』を購入したんですよね、実は。まさにメーカーの「戦略PR」の思惑にはまってしまったのです。
 買っただけで満足して、ほとんどやっていないのですけど……

 『漢検DS』は、発売後2ヵ月で、「想定の10倍以上」という55万本を販売したそうなのですが、この新書では、『東京新聞』に記事として掲載された「漢字力 85%が低下実感」という記事が紹介されていました。『日刊スポーツ』にも同様の記事が掲載されており、Googleで検索してみると、現在でもかなり多くのネット上の記事が見つかります。
 僕もこの記事をどこかで読んで、「自分の漢字力に、なんとなく危機感を抱いた」記憶がありますが、この「調査」を行ったのが、『漢検DS』を発売しているメーカーだったとは、当時は意識していなかったなあ。記事のなかには、ちゃんと「ロケットカンパニーが調べた」と書いてあるのですが、新聞や雑誌に広告ではなく「記事」として採り上げられていると、こういう「ゲーム会社のプロモーション戦略」というのを意識しなくなってしまうんですよね。
 もし同じことが『ファミ通』の広告欄に載っていても、僕はたぶん「あー宣伝宣伝」としか思わなかったはず。

 もちろん、「漢字力調査をすること」も、「それをニュースとしてメディアに売り込むこと」も悪いことではありません。調査内容も事実なのだと思います(「漢字力低下」は、大部分のパソコンを使っている人間にとっては、日々実感していることでしょうし)。
 それをアピールして『漢検DS』というソフトを売るのも、責められるようなことじゃないのです。
 それでも、いまの時代というのは、「記事」と「広告」の境界がどんどん無くなってきているのだなあ、ということを考えさせられる話ではありますね。
 この『戦略PR』という新書を読んでみると、「広告」そのものではなくても、「その商品に消費者が興味を持つようなデータをメディア経由で戦略的に流布する」ことは、もう、「斬新な方法」ではないのです。

 もしかしたら、某超有名RPGの新作の「発売延期」も、「『ドラ●ンクエスト9』で遊びたい!」という空気を盛り上げるための「PR戦略」の一環なのかもしれませんね。あまり効果が出ているとは思えませんが……