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2008年11月20日(木)
『もやしもん』の作者の「マンガを読んでマンガを描くな」

『ダ・ヴィンチ』2008年12月号(メディアファクトリー)の記事「石川雅之インタビュー」より。石川さんは『もやしもん』が大ヒット中の人気マンガ家です。

【「マンガは娯楽」と言いながら、その一方で、作品を描く際には入念な下準備を怠らない石川氏。専門的な知識を必要とする『もやしもん』のため、忙しい合間をぬって海外に取材に行くこともしょっちゅうだ。とにかく厳密な研究と資料集めを怠らず、もはや学者肌とまでいえる執念を持って、真摯な姿勢で作品作りに取り組む。

石川雅之「偉そうな言い方になりますが、『マンガを読んでマンガを描くな』って思うんです。たとえば、魔女っ子モノと呼ばれる作品は多い。でも、本当の“魔女”についてちゃんと勉強したの?と思っちゃう内容をいくつか見かけたりして。だから、きちんと調べたほうがいいなって。本当の“魔女”を勉強したら、今までのマンガとは違う魔女が描けるのでは、と思っています。なので、たとえばマリア(石川さんの新作『純潔のマリア』の主人公)の着ている服も、当時実際に着用されていた服のデザインや素材を基にしたうえで、かわいく見えるように描いています」

プライベートで時間がある時は、たいてい菌類か百年戦争関連の本を読んでネタをストックしているという。

石川「調べるのは苦じゃありません。調べないで描いて間違って、あとで直すほうがもっと大変ですから。必要ならば、実際に現地に飛んで取材したりもしますね。僕はちまちましたディテールについて調べるのが好きなんですよ。
そういう意味で、デビューから作風は変わってきましたが、昔からの土壌は今でも変わっていませんね。たとえばマンガを読んでて気になるのは、江戸の街並みが描かれているのに、街中に排水溝がいっさい描かれていない、とか、現代の建物はどれも雨どいが付いているはずなのに描かれていない、とか。そういう細かいところを深めるのが面白くて好きなんです。だからテレビやマンガでも、他人が気づかない部分を見つけては、ひとりで突っ込みを入れています」】

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 僕はこの話を読んで、手塚治虫先生も「マンガを描くためには、マンガだけ読んでいてはダメだ。もっと本を読んだり、映画を観たり、音楽を聴いたりしなくては」と、よくマンガ家志望者にアドバイスしていた、というのを思い出しました。たしか、赤塚不二雄先生も、同じようなことをどこかでおっしゃっていたはずです。

 『もやしもん』の石川雅之さんの場合は、前述の「大家」ふたりが「他の芸術から吸収すること」を勧めているのとはちょっと毛色が違って、「題材に対する研究者としてのアプローチ」を重視されているようです。
 石川さんが現代のマンガ家として、自分が描くものの「背景」にここまでこだわっているというのは、本当にすごいことです。
 現代のマンガは絵にもストーリーにも「進化」が続いており、活躍しているマンガ家の多くが、「原作者」を組んで、「絵を描くこと」に特化しているというのに。
 マンガを描くという才能と、こういう「学究肌」の性格とは、必ずしも同じ傾向のものではないでしょうし、それを両方とも高いレベルで追究しようとすれば「どっちつかず」になってしまう危険性もあるでしょう。

 それにしても、「マンガを読んでて気になるのは、江戸の街並みが描かれているのに、街中に排水溝がいっさい描かれていない、とか、現代の建物はどれも雨どいが付いているはずなのに描かれていない、とか」という石川さんの言葉を読むと、本当に知識を積み重ねるのが好きで、ディテールに徹底的にこだわる人なのだなあ、ということがよくわかります。
 僕は、「マンガ」で「排水溝や雨どいがないこと」なんて考えたこともなかったし、むしろ、「そういった『作品世界に関係ないディテール』を排除すること」が「マンガ化する」ということなのではないかと思っていましたが、世の中には、そういう「細部」にこそ「描くべきもの」があると認識しているマンガ家もいるんですね。たしかに、それもひとつの「個性」だよなあ。それほどこだわって作品をつくっていくのは本当にキツそうだけど……

 この時代にマンガ家として生きていくのは、並大抵のことじゃないんだな、とあらためて思い知らされるインタビューでした。