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2008年07月15日(火)
某芥川賞作家の「芥川賞を受賞して変わったこと」

『文学賞メッタ斬り! 2008年版 たいへんよくできました編』(大森望, 豊崎由美著・PARCO出版)より。

(大森望さん、豊崎由美さんの「メッタ斬り」コンビが、『猛スピードで母は』で、第126回の芥川賞作家・長嶋有さんを迎えてのトークショーを収録したものの一部です。長嶋さんが芥川賞を受賞されたときのことを振り返って)

【豊崎由美:(芥川賞の)受賞を知らされた時はどうでした?

長嶋有:どう思ったかな。ふつうにうれしかったですね。

豊崎:で、その後モテるようにはなったんですか? モテという面からいくと、芥川賞効果ってどんなもんなんでしょう。

長嶋:うーん、モテかあ……。じぶんのモテの何割が芥川賞効果なのか、よくわからない。でも、ものすごいがんばらないとモテないから、やっぱりだめなんじゃないかな。でも、不動産屋で物件を借りやすくはなったよ。

豊崎:やっぱりねえ。

長嶋:履歴に作家って書いて、これですと言って本を見せて、芥川賞と書いてあるとものすごく信頼される。

大森望:「ALWAYS 続・三丁目の夕日」の時代から変わらない。まともな社会人としての作家生活は、芥川賞受賞からはじまると。やっぱり、取材は殺到したんですか。

長嶋:それはどの方も言うけど、すごかったですね。僕は受賞者の中ではわりと地味なほうだったと思うんだけど。あのときは、直木賞が、山本一力さんと唯川恵さんのダブル受賞で。何となく家族もの小説みたいに括れる三作だったんで、どのメディアもそういうふうになるべく大きくわかりやすく括ろうとするんだよね。それにうまく尻馬に乗っけてもらった感じで。『あかね空』と『肩ごしの恋人』のついでに僕もいますよーみたいに(笑)。地味な受賞のつもりだったわりには、ずいぶん取り沙汰してもらえた。

豊崎:具体的に、「芥川賞を受賞するとこんないいことがありますよ」というのは?

長嶋:仕事が増えますよ。

豊崎:原稿料はどうなんですか。

長嶋:上がりますよ。相撲でいうと金星みたいなもので、横綱に勝つとそれ以後、必ずその人の給料が一生涯上がるみたいに。でも、わからないか、これからまた下がるかもしれない。

豊崎:おおっ、原稿料も上がるんだ!

長嶋:うん。今、当然のことみたいに言ったけど、僕もちょっと驚いた。だって、デビュー二作目で芥川賞をとったから、ひとつしかギャラを知らないんですよ。で、何か見たらちょっと上がっていて。

豊崎:あと、とってないよりとったほうが執筆の自由が利くのかなと想像したりするんですけど。書きたいものが書けるようになるとか。長嶋さんは、二作目ですぐとってしまわれたから非芥川賞作家の時期が短くて、とってない期間の状況がよくわからないかもしれませんが。】

参考リンク:芥川賞・直木賞と作家の「生涯賃金」(活字中毒R。(2006/7/11))

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 今日、第139回芥川賞・直木賞の選考結果の発表が行われ、芥川賞は楊逸さん、直木賞は井上荒野さんが受賞されました。
 「ノーベル文学賞」は別格として、「日本でいちばん有名な文学賞」である芥川賞・直木賞というのは、ある意味「日本で唯一、広く社会的に認知された文学賞」でもあるんですよね。最近では「本屋大賞」などもかなり頑張ってはいるのですが、まだまだ「読書好きの人たちのあいだではメジャー」というくらいの存在です。三島由紀夫賞、山本周五郎賞、すばる文学賞、江戸川乱歩賞などの「読書好きにとっては知られた文学賞」も、世間的には「何それ?」って感じですよね、たぶん。
 「芥川賞作家」「直木賞作家」と言われるだけで、なんだかもう「有名作家」って感じですし、こんなふうに賞の名前が作家としてのポジションを語ってくれるのは、いまのところ、この2つの文学賞だけです。

 「芥川賞を受賞する」なんていうのは、まさに、ごく一握りの人にしかできない経験なわけですが、ここで長嶋さんが語られているような「芥川賞作家になったこと」による、さまざまな変化というのは、「取材がものすごかったこと」を除いては、そんなに「劇的」なものではないようにも思えます。
 もちろん、本人にとっては、「不動産が借りやすくなった」とか「原稿料が少し上がった」というのは、ものすごく大きな問題ではあるんでしょうけど。
 しかしながら、参考リンクには【編集者によると、直木賞を受賞すると生涯賃金が2、3億円上がるらしいですよ。】という石田衣良さんの発言があります。もちろんこれは作家としての「本業」だけではなく、講演会などの「副業」での収入込みではあるのですが、「即効性」には乏しいとしても、長い目でみれば、芥川賞・直木賞というのは、それだけの影響力がある「看板」なのです。そりゃあみんなが、喉から手が出るほど欲しがるでしょうし、伊坂幸太郎さんが「予備選考を辞退」されただけでも話題になるのもわかります。

 この話、作家って、芥川賞・直木賞を獲って(あるいは、テレビに出たり、大ベストセラーを出して)ようやく「普通の社会人として扱われる」くらいの「社会的信用」しかないのか……と考えてしまう面もあるのですけどね。