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2006年07月11日(火)
芥川賞・直木賞と作家の「生涯賃金」

「ダカーポ・587号」(マガジンハウス)の特集記事「芥川賞・直木賞を徹底的に楽しむ」より。

(『きれぎれ』で第123回芥川賞を受賞された町田康さんと、『4TEEN』で第129回直木賞を受賞された石田衣良さんの対談の一部です)

【司会者:ところで、受賞直後に始まる受賞作家への各メディアからの取材依頼の嵐は、すさまじいそうですね?

石田:すごかった(笑)。1か月に50本か60本の取材を受けることになりました。
 よく、取材なんて毎回同じ質問でしょ? とか言われるんですけど、そんなことはないです。
 フジテレビのアナウンサーに「石田さんはカラオケで何を歌いますか?」と聞かれたかと思えば、赤旗新聞の記者に「作品の舞台になっている月島の各社社会について意見を?」と聞かれます。毎日毎日疲れたけれど、貴重な体験でした。

(中略)

町田:受賞したら、いきなり、それまでと打って変わって強引に原稿を取り立てる編集の人もいましたよ(笑)。やっと収穫だぜ! みたいな。あれにもちょっと戸惑いました。
 えっ、あれっ、この人、こんな人だったっけ? と思いました。まあ、これからは作家として独り立ちして行け、という気持ちなのかもしれないけれど。

石田:受賞第一作はうちで、みたいな。

町田:でも、石田さん、受賞時には、もう何作かあったでしょ?

石田:ええ、並行して何作か書いていますからね。

町田:出版社は帯に「受賞第一作」と書きますが、一作目がいっぱい出る人もいますね。
 書く側にとっては受賞側から取り組んでいるから「石田衣良の新境地!」と書かれても、実際にはかなり前から書いていたりする。

石田:新作はいつも新境地です(笑)。ただ、受賞後に作風がガラリと変わる作家は危険ですね。気負いがあると、作品が縮こまってしまう。小説は生き物だから。

町田:候補作になってから受賞までは数か月あるわけですから、自分のペースを維持していれば、受賞したときにはある程度かたちになった作品ができているはずでしょう。それがないとすると、数か月仕事をしていなかったことになる。

石田:テーマや書き終えた作品を常に複数持っていないと、受賞後もずっと書き続けていくのは厳しい。

司会者:受賞で現実的に得をしたことはありましたか?

石田:やっぱり、広く名前を覚えてもらえたことでしょう。本は売れますし。

町田:僕は、時間の流れをあえて混乱させる作品で受賞したので、受賞作を読んだ人が難しい小説を書く作者だと思い込んでしまって困った。

石田:編集者によると、直木賞を受賞すると生涯賃金が2、3億円上がるらしいですよ。

司会者:講演活動を含めてですか?

石田:そうです。でも、僕は個人の講演はいっさい受けていないんです。書き手としての自分を強く意識していないと危険だと思うので。だから、生涯賃金はそんなに上がらないかもしれません。町田さん、講演は?

町田:僕は人前でしゃべるのはダメです(笑)。

石田:でも、町田さんとは今日初めてお会いしましたけれど、2人で組んで旅回りでしゃべったら、受けると思いますよ。今日のこの対談のままで十分いける(笑)。とにかく、書くことは、好きじゃないと続かないですよ。朝早くから夜遅くまで部屋でじっとキーをたたく苦しい仕事だから。でも、つらいけれど、楽しいんですけどね。】

〜〜〜〜〜〜〜

 この本には、直木賞の選考委員である北方謙三さんのインタビューも載っているのですが、北方さんは、「ほかの作家の肩書に”直木賞作家”とある横で、僕だけ”作家”なのは、やっぱり嫌ですよ」と語っておられます。北方さんは、直木賞「未受賞組」なのですが(御本人によると「もらえなかったこともあるし、あげるというのを断ったこともある」そうです)、確かに、「芥川賞作家」「直木賞作家」というのは、「作家のなかでもステータスが高い職業名」として一般的に使われているような気がします。芥川賞・直木賞以外では、こんなふうに一般名詞化した文学賞というのはないんですよね。「三島由紀夫賞作家」とか、「このミステリーがすごい!大賞作家」と、テレビ番組で紹介されることは、まずありえないのです。

 作家にとっては、この「芥川賞・直木賞」というのは、「別格」の存在のようで、石田さんも【編集者によると、直木賞を受賞すると生涯賃金が2、3億円上がるらしいですよ】と仰っておられます。一流企業に勤めるサラリーマンの生涯賃金分くらいが、「芥川賞・直木賞作家になれるかどうか」にかかっているのですから、それはもう、作家として生きていくいこうとする人の大部分が、「ノドから手が出るほど欲しがる」のも、当然のことです。
 もっとも、ここでは「本が売れる」というだけではなくて、「講演」の話が出てきますから(というか、講演をやればかなり稼げるらしいです本当に)、「芥川賞・直木賞作家」になるというのは、「文化人」としてのステータスが上がって、それに伴う収入が増えるという面もありそうです。確かに「作家の○○さん」の講演だと知らない人は来てくれそうにありませんが、「直木賞作家の○○さん」であれば、名前を聞いたことがない人でも、なんとなく「大作家が来た!」と思うでしょうから、集客力もかなり違うのかもしれません。講演料とか依頼される頻度も、だいぶ違ってくるのでしょうね。

 しかしながら、同世代のなかでは、たぶん本をかなり読んでいる部類の僕も、「ここ5年の芥川賞・直木賞作家」の半分も思い出せませんから(ちなみに、あの綿矢りささんが受賞されたのが第130回芥川賞で、今から2年半前の2004年1月のことでした)、「芥川賞・直木賞作家」になれたからといって、必ずしも永遠に「人気作家」でいられるわけでは、ないみたいなんですけどね。
 その狭き門を考えると、生涯で2〜3億の上乗せというのは、むしろ、「安すぎる」ような気もします。