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2008年03月07日(金)
「志村けん、CM撮影ボイコット事件」の真相

『変なおじさん【完全版】』(志村けん著・新潮文庫)より。

(「なんでもタレント任せで放送作家といえるのか」という項の一部です)

【バラエティ番組を見ていると、クレジットに放送作家の名前が6人も7人もダーッと出てくるけど、あんな多くの人がいて何をやってるんだろう。企画会議に顔を出して、ただ使わないアイデアを出すだけという作家の名前も入っているんだろうなあ、きっと。
 僕の番組は、作家といっても座付きのような男がいて、僕のアイデアに肉付けをして台本にしていくという形だ。『加トケン』のときは作家がいっぱいいたけど、どうもだめだった。僕が説明したことを、ココがおもしろいとちゃんと理解して書いてくれればいいけど、「違うよ、言ってることがわかってるの?」となっちゃうのが多いから。
 読むとすぐにわかる。ずいぶん悩んで何回も考えた上で書いたのか、思いついたままサラッと書いただけなのか。言い回しが変だったり、日常会話でこんな言い方しないというのがけっこうある。作家には「1回自分で声を出して読んでみろよ」って言うんだけど。
 作家は朝長浩之っていうんだけど、彼とのつきあいも長くなった。

(中略)

 田代たちと飲む時も、あいつはずうっと一緒。そのうちしゃべり方まで互いに似てくる。だから朝長の書いたセリフは、スーッとしゃべれる。そのへんが才能だ。だから彼がくも膜下出血で倒れたときは困った。違う奴がいきなり台本を書くとダメなんだ。読みづらいし、言いづらいし。オレはこんな言い方しねえよ! って。
 朝長は僕と仕事をしていて大変だと思う。コントの台本をつくるのは難しいから。
 僕もトーク番組に出るようになってびっくりしたけど、あの手の番組の台本の多くは「拍手、大歓声、盛り上がったところでトーク」と書いてるだけだ。「よきところで、近況を聞いて」とか、要するにタレント任せ。でも、作家やディレクターの仕事はそうじゃないだろう。前もってマネージャーに取材するなりして、近況としてこんなことあります、こんな話をするとびっくりしますとか、調べたことを書くのが作家じゃないのって。
 そういうところを、最近はすごく怠ってる。立派な紙を使ってあんな台本をつくらなくても、進行表の紙一枚で十分だ。
 朝長だったら、一緒にさんざん「ここでこんなこと言おうか」「こんなことやろうか」と考えた上で、さらに台本にしてくる時には「こんな言い方もできます」「もしかしたら、こんなこともできます」とプラスアルファのことまで書いてくる。
 なんの仕事でもそうだろうけど、相手が考えていることの一歩先まで神経を回すことができて、初めてまともな仕事といえると思うんだけど。
 若手作家のがんばりを期待してやまない。】


(「CM撮影ボイコット事件の真相」という項から)

【もうずいぶん昔のことだけど、あるCM撮影の現場で頭にきて帰っちゃったことがある。
 きっかけは、撮影中に監督が僕に向かっていきなり、
「おもしろおかしく歌って踊って下さい」
 って言ったことだった。「どういうことですか?」って聞いたら、
「おもしろおかしく、志村さんらしい振りで踊って下さい」
 だって。
「あ、そうですか、じゃあどういう歌がいいですか?」
「お任せします」
(オイオイ! オレは作詞家でも作曲家でもないぞ!)
「振り付けの人はいるんですか?」
「いや志村さんのご自由に」
(ご自由にって、お前なあ。曲もないのに踊れって、そりゃ失礼だよ!)
 それで、もう頭にきた。
「お前は演出家だろ! 演出家だったらこういうイメージで、こんな踊りはどうですか、とかあるだろ!なにもないんだったら、よくそれで演出家としてカネもらってるな!!」
 そう怒って、僕だけ先に帰っちゃった。
 セットとかもうできていて、スタッフはスタンバイしてたのにね。
 でも、やっぱり仕事だから、お互いにそれぞれの領分というものがある。 彼には演出家としてのプランがあるべきで、僕はそれにそって演じたり意見を言うのが、普通の仕事の仕方でしょ。それを「おもしろおかしくパーッとやって下さい」だから。
 そりゃ僕もプロだから、少しでも題材があればそれもできなくはない。
 けど、その題材がなにもないんだから、話にならない。ベテランの監督だったけど、それだけお笑いを軽く見てるんだよね。
 そんなこともあったから、「あいつはうるさい」なんて噂で言われるんだろう。
 けど、うるさいんじゃなくて、やり方が間違ってるんだって! そうならそうと何日か前に言えば、こっちも準備してちゃんとやるよ。】

〜〜〜〜〜〜〜

 一方の当事者からだけの説明ではあるのですが、もしここで志村さんが書かれていることが事実だったとすれば、そりゃあCM撮影をボイコットして帰りたくもなりますよね。
 しかしながら、たぶんこの監督がこういう仕事のやりかたをしたのは、これが初めてというわけではないでしょうし、こういう監督というのは、たぶんこの「ベテラン監督」だけではないと思います。

 以前、明石家さんまさんが、「自分の番組の放送作家で、バラエティ番組の台本に『ここでさんま登場。15分間爆笑トーク』とか台本に書いてくるヤツがいる」と嘆いていたのを聞いた記憶があるのですが、「フリートークの天才」さんまさんだから、こういう台本が許される(というか、さんまさんも別に許していたわけじゃなくて、呆れていたみたいですけど)、というわけじゃなくて、芸能界には、こういう「放送作家」や「CM監督」が本当に存在しているみたいです。
 まあ、この人たちもこれで「仕事」をもらっていてお金を貰っているのだから、「芸能界では常識の範疇」なのかもしれませんし、「自由にやらせてくれ」と言うような芸人さんも多いのかもしれませんけどね。
 ここで志村さんに批判されている「放送作家」や「CM監督」だって、「天下の志村けんに、自分があれこれ意見を言うと失礼にあたるのではないか?」などと悩んだ末に、という可能性もありそうですし。

 それでも、やはり「プロ」である以上、相手がどんなに大物であっても、最低限自分なりのプランを準備しておく必要はありそうです。
 何年か前、僕は「お客様のお好みの焼き加減でお召し上がりください」ということで、熱い鉄板に生肉が載せられたまま出てくるステーキハウスに入って驚いたことがあります。しかもその店、地元ではそれなりの「高級店」なんですよ。
 自分で焼きたければ、焼肉屋に行くってば……
 もちろん、プロとしての焼き加減のなかで、ある程度は相手の「好み」を反映するというサービスは望ましいと思いますが、「じゃあ肉と鉄板は準備しますから、好きに焼いてください」なんていうのは、全然「サービス」じゃありません。単なる「手抜き」です。
 
 実際は、放送作家のほうはさておき、この「ベテランCM監督」のほうは、なんで志村さんがこんなに怒ったのか、よくわからなかったのではないでしょうか?
 ベテラン監督である自分がこんなに譲歩して、志村けんに「やりたいようにやっていいよと言っている」のに、と驚いたのではないかなあ。

 この話を読んだ人の大部分が、「こいつらそれでもプロか?」と呆れたと思うのですが、この手の「相手に『任せている』という名目で『手抜き仕事』をしている人」って、けっこう僕の周りにも多いのですよね。いや、他人事じゃなくて、僕自身もそういうことを無意識のうちにやってしまっているような……