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2007年12月11日(火)
8年間婚約していたフランス人カップルの「別れの言葉」

『金曜日のパリ』(雨宮塔子著・小学館文庫)より。

(人気アナウンサーとして働いていたTBSを退社後、フランスのパリでの生活を送っている雨宮さんのエッセイの一部です。文中のフランス語には、僕のパソコンでは入力できない(上に「´」とかがついている)アルファベットが使われており、この引用は原文そのままではない偽フランス語になってしまっています。申し訳ありません)

【フランス……。パリ市長が自らのホモセクシャルを宣言したように、恋愛の形はなんでもありの国といったところがある。カップル同士で相手を替えるといった行為も頻繁に行われているという。恋愛……。当事者にしかわからないことが多いなかで、人様の恋愛について口を挟む気は毛頭ない。が、先日、軽く聞き流せないことを耳にした。なんでも、8年間婚約していた間柄(フランスでは年若くして婚約を結ぶ人が少なくない)のフランス人カップルが別れることになったのだが、その別れの言葉が“On s’est trompe”(僕たち
は相手を間違えていた)だったというのだ。その話をしてくれた友人によると、この表現を聞いたのはこれが最初ではないとい言う。
 別れるに至った経緯はふたりの間にとどめておいてもらうとして、それでも真剣に付き合っていたふたりの最後の言葉が、“間違えていた”というのはあまりに寂しすぎる。ひいては、その人と向き合っていた自分をも否定することになるのではないだろうか。そう友人に返すと、そういう考え方はフランス人にはあまりないと彼女は言い、もうひとつ、何度か聞いたことがあるというセリフを教えてくれた。
“Tu n’etais pas la femme de ma vie”(君は僕の生涯の女性ではなかった)
 いつか出会う最愛の人を求めて、いくつになっても女性、男性であり続けるこの国の人たちはとても素敵だとは思う。そういう自由と孤独を愛する大人の国に惹かれて渡仏した部分も大きい。
 両親が離婚した後、ボーイフレンドのいる母親と一緒に暮らしていたあるフランス人の少年は、日本へ遊びに来たとき、パリにいる母親に連絡をとったものの、母親は息子がどこへ行ったのか忘れていて、かつ新たな恋人ができたと報告を受けたという話に、決して少なくないそういった境遇の子供たちはどう育っていくのだろうかと思った。友人の話を聞きながら、自由の代償としての責任の取り方が大人らしいかどうかは、まだこの国から答えをもらっていないことに気づいた。
 子供を育てながらより一層女を磨き、いつまでも恋愛体質でいるフランス女性もいいけれど、最近素敵だと思う女性に共通していることは、“恋愛”というものに捕らわれていない女性だ。】

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 もし、「8年間婚約していた」という日本人カップルが別れることになったら、彼らは、どんな別れの言葉を交わすのでしょうか?
 まあ、日本の場合は、「交際8年」はあっても、「婚約8年」というのは現実的にはほとんどありえない話なのですが、一度は婚約するに至ったカップルであれば、どちらかが結婚詐欺師でもないかぎり、「僕たちは相手を間違えていた」という言葉は「想定外」のはずです。日本人カップルの場合は、「お互いにいろいろ事情があるから、仕方ないね……」とか、「いい人だったんだけど、価値観のギャップが埋められなくて」というような「事情説明」が一般的なのではないでしょうか。「今度生まれ変わったら、絶対一緒になろうね」とか言う人だっていますよね、きっと。
考えてみれば、そんなに引きずるくらい好きなら、生まれ変わるまで待たなくてもいいような気もしますけど。

 そういう意味では、フランス人は、ある意味「正直」で「潔い」と言えるのかもしれません。もし同じような状況になったとすれば、そんなに長くもない人生において、8年間もの自分の恋愛を「間違っちゃった」と言い切る自信、僕には全くありませんから。だって、そんなことを認めてしまったら、自分がバカだということを公言しているみたいだし、元恋人も傷つくだろうし。
 こういう話を聞くと、日本人とフランス人というのは、「恋愛感覚」が根本的に違うのかな、と考えてしまいます。どちらが正しい、とか決められるようなものではないのですが、僕にはやっぱり、日本的な「恋愛感覚」のほうがしっくりくるのです。

 日本の夫婦の典型的な「離婚しない理由」として、「子どものため」というのがあるのですが、僕は以前から、この言葉を耳にするたびに「自分たちに別れる勇気がないのを子どものせいにするなよ、そんな家庭で『お前がいたから別れられなかった』って言われ続ける子どもの身にもなってみろよ……」と反発せずにはいられませんでした。
 でも、こうして実際に「自分の恋愛のほうが、子どもの存在よりはるかに優先順位が高い」というフランス人の生き方を目の当たりにしてみると、やっぱり、「少しは子どものことも考えてやれよ……」と言いたくなってしまうんだよなあ……