初日 最新 目次 MAIL HOME


活字中毒R。
じっぽ
MAIL
HOME

My追加

2007年11月09日(金)
モンゴルの「佐川急便」と小樽港の「スッパリ半分で断ち切られた車」

『地球の裏のマヨネーズ』(椎名誠著・文春文庫)より。

【これまで世界のいろんな国のいろんな機種に何気なく乗ってきたが、ぼくは落ちたらそれで終わり、まあしょうがないのだろうな、といつも思っているので、飛行機に乗って怖い、という思いをしたことはあまりない。しかしそれでもロシアのツボレフとかアントノフなどの機種のいかにもこれは物凄く古いぞ、というのがわかるような飛行機に乗る時はその覚悟の度合いを強めたりする。
 ロシアの国内路線ではセーフティベルトがちぎれていて締めることができない、という飛行機に乗ったことがあるし、中国では空港に着陸したとき、滑走路から吹き上がってくるもうもうとした土埃がキャビンの中に入りこんできたのを体験したことがある。国際便であったし、高度1万メートルぐらいのところを飛ぶ飛行機というのは構造的に完全気密である筈だからこの時は驚いたが、取り敢えず無事着陸しているので、まあそれ以上のことは考えないことにした。
 途上国の飛行機に乗る時はその飛行機の履歴のようなものが事前にわかるといいなあ、と時折思う。
 自動車も日本製のものは中古でも人気がある。ずっと以前、モンゴルの奥地を旅していた時、草原の道を「佐川急便」のトラックがやってくるのを見てびっくりしたことがある。たいしたものだなあ、佐川急便はモンゴルのこんな奥地まで国際宅配便をやっているのか! と一瞬感心したのだが、あとで佐川急便の中古のトラックを外装を変えずそのまま使っているだけだとわかって納得した。以来、アジアの国でたびたびこの佐川急便を見かけるがもう驚かない。
 昨年、小樽港へ行ったら、岸壁に日本のクルマが半分に切られて沢山並んでいるのを見て「ん?」と首を傾げたことがある。
 どのクルマも本当にスッパリ半分で断ち切られているのだ。それが百台ぐらい並んでいるのだからなんとも不思議な風景である。これもあとで理由が分かって納得したのだが、ロシアの船が日本から中古車を買い付けに来ているのだが、自動車そのもので持っていくと中古車といっても関税が結構かかる。しかし自動車ではなくその部品として輸入すると関税率はぐっと下がるので、クルマを半分に切ってしまうとそれは建前上では部品ということになり納入業者にはかなり有利な条件となる。
 こうして輸入したクルマは再び、溶接されて1台のクルマに戻るのだろうが、どうもそのようなクルマには乗りたくないものだ。
 東南アジアでは日本のテレビやビデオなどの中古品も超優良商品になっているが、ある田舎の市場で、そういうテレビやビデオのリモコンだけを売っている店を見たことがある。どこをどう見てもリモコンだけで本体がない。しかもそのリモコンは見たかんじ完全に壊れていて、何をどうするためにそれを売っているのか、あるいはそれを何をどうするために買う人がいるのかさっぱりわからない。おびただしい数のぶっこわれリモコンが並んでいたが、いまだに謎のままである。】

〜〜〜〜〜〜〜

 僕はそんなに「危ない飛行機」に乗ったことはないのですが、椎名さんのように世界の辺境を旅してきた人にとっては、「落ちたらそれで終わり、まあしょうがない」くらいの覚悟が必要なのかもしれませんね。アマゾンの奥地やパタゴニアにジャンボジェットは飛んでないだろうし。それにしても、僕はただでさえ飛行機が苦手なので、ここで取り上げられているような中国やロシアの「危ない飛行機」に乗るだけで、恐怖のあまり具合悪くなってしまいそうなんですけど。「飛行機の履歴」なんて、知らないほうがいいようにも思います。「どの飛行機にも乗れなくなってしまう」かも。

 こういう話を読むと、日本の一般的な「安全基準」というのは、現在でもかなり世界の中では厳しいほうなのだな、という気がします(ちなみに、この本が単行本として発行されたのは2003年)。そして、日本人が、車や電化製品を「もうこれは限界」あるいは「買い替えの時期」だと判断する時期というのも、世界的にみればかなり「見切りが早い」ほうなのでしょう。
 しかし、いくら関税が高いからといって、「一度きれいに真っ二つにしてしまった車」に乗ろうっていう日本人はあんまりいないですよね。よく「日本人は車の綺麗さにこだわりすぎる」なんて言われますが、僕だって、「事故車」というだけで、「なんかトラブルを抱えているんじゃないかと不安」になってしまいますから。「安全性」と「安さ」の許容範囲というのは、その国の経済力によって異なってくるのでしょうが、さすがにこの「一度半分に切られた車」には僕も驚きました。だって、万が一何かの拍子につなげたところが取れたりしたら、たぶん自分が死ぬか誰かを殺すよ……

 なんのかんの言っても、日本はまだ、少なくとも物質的には「豊かな国」なのでしょうね。うちにも「壊れてはいないけど、もう使わなくなったリモコン」が、けっこうありますし。