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2007年10月30日(火)
ある郊外型書店の「本好きを唸らせるコミックス売り場の工夫」

『本棚探偵の回想』(喜国雅彦著・双葉文庫)より。

(喜国さんが、某ブッ●オフなどの新古書店におされて「新刊が売れない」ことに悩んでいる日本の出版業界を救うために「1日で5万円分の新刊本を買う」という企画を実行したときの話です)

【ここまで税込み38207円。あと1万円ちょっと。
 連れ合いを車で拾って事情を説明する。自分の買いたい本はみんな買ってしまった。お願いだから君の欲しい本を今日中に1万円分買っておくれ。
 やはり本好きの彼女がこの申し出を断るワケがない。少し離れた場所にある郊外型チェーン店に車を向ける。チェーン店の場合、本部から言われるまま、何も考えずに本を並べる店が少なくないのだが、この店には独自のアイデアがある。
 例えばコミックス。立ち読み防止にビニールパックをしてある店は多いのだが、ここは1冊は中が見えるようになっている。それだけならば普通。この店のユニークなのは、パックしてあるコミックスの表紙すべてに発売日が明記してあること。何気ないけれど、この効果は大きいと思う。近頃めっきり記憶力が落ちて、自分がどの本を買って、かの本を買ってないかさっぱり覚えていない僕が、本を買うときに頼りにしているのが奥付の発売日。「おっと、この作者の新刊がもう出たのか。早速買わねば。いや、表紙に見覚えがあるぞ。もう買ってたかな」と内容をパラパラしたって判るはずがない。だって読んでないもの。そこで奥付を見る。2001年6月発行。なんだ新刊じゃないじゃん。なら買ってるわ。2002年2月発行。あ、出たばっかだ。んじゃ買ってない。
 長編コミックスの表紙はどれも似ている。本来なら買ってくれるべき人が、中身が見られないせいで「もう買ったかも」と、スルーしている場合は多いと思う。そしてコミックスの場合、買うことを習慣にさせるのが商売の秘訣だったりするので、一度スルーしたまま読者でなくなる可能性は低くないのだ。逆に、同じ本を買って怒ってる人もいるだろう。腹を立てて「二度と買うかい!」なんてことになってる場合だってあると思うのだ。】

〜〜〜〜〜〜〜

 この文章を読んでいて思い出したのですが、僕のお気に入りの郊外型書店も、これと同じことをやっているのです。その書店、けっして広くもなければ、書籍点数も大きな街の中心部にある紀伊国屋とかジュンク堂などに比べれば、本当に「微々たるもの」なのですが、そこに行くと、なぜかいつもたくさん本を買ってしまうので、「この書店は、きっと僕と相性が良いのだろうなあ」と思っていました。

 でも、あらためて考えてみると、あの書店が僕にとって気持ちよく本が選べる場所であるのは、こういうコミックスの売り方のちょっとした工夫に反映されているような、「本好きの心理をよく知っているスタッフがいるから」なのでしょうね。「相性の良さ」は、単なる偶然の産物ではないのです。
 僕はそんなにたくさんの種類のコミックスを買うほうではないので、喜国さんのこの文章を読むまで、「何気ないサービス」の本当の価値を理解していませんでしたし、多くのお客さんは、「こんなのわざわざ書かなくても、新刊だけ平台に置いておけばいいのに」あるいは「間違ってダブリ買いしてしまうお客さんもいるかもしれないんだから、勿体ない」「そもそも、これって何の意味?」と感じていたのではないでしょうか。
 ほんのちょっとしたサービスなんですけど、書店に置いてあるコミックスの数を考えれば、実際にこれをやるのは、けっこうな手間のはずです。おそらく、大書店で同じことをやるのは難しいでしょう。

 零細書店には厳しい時代ではありますが(実際、家族経営レベルの小さな書店でも、ここまでのサービスは難しいだろうし)、こういう「ちょっとした工夫」というのは、本好きにとってはけっこう「書店選びのポイント」になるのかもしれません。僕がよく行く書店も、おそらく、僕が気づかないところに「本好きが本を選びやすくなるような工夫」が張り巡らされているのです。そういうのって、スタッフも本が好きじゃないと、思いつかないし、そのメリットも理解できないんですよね。
 日頃コミックスをあまり買わない人にとっては、「『ONE PIECE』の最新刊がいつ出たかなんて、みんな知ってるに決まってるだろ!」って感じでしょうし。
 僕もそういえば『美味しんぼ』を何巻まで買ったか忘れてしまって、途中から買わなくなってしまったのだよなあ。ちょっと間隔が空いてしまうと、ああいう100巻もあるようなマンガの場合、自分がどこまで読んだか忘れてしまうんですよ本当に。
 ダブリ買いになるのは悔しいし、さりとて、途中を飛ばしてしまうのは、もっと悔しい。このサービスを考えた人は、たぶん、ダブリ買いで何度も悲しい思いをしたのではないでしょうか。

 同じような規模の「郊外型書店」であっても、入ってみるとついつい買い込んでしまう店もあれば、店内を何周しても、買いたい本が見つからない店もあります。そんなに大規模ではない書店がこれから生き残っていくためには、こういう地道だけど本好きには確実に伝わるサービスって、けっこう大きなヒントになるんじゃないかな、という気がするのです。