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2007年10月14日(日)
富樫義博さんと本宮ひろ志さん、二人の「天才マンガ家」の肖像

『サイゾー』2007年10月号(インフォバーン)の特集記事「人気マンガの罪と罰」より。

(2人の「人気マンガ家」の裏話。まず『HUNTER×HUNTER』が連載再開されたばかりの富樫義博さんについて)

【連載再開の知らせは、ファンにとって喜ばしいものだが、業界内では「8〜10週分ほど、掲載できる分量がたまったというだけで、完全復活には至らない」という見方が濃厚だ。一部のマンガ編集者の間では、「富樫を超えるマンガ家をもっと輩出しなければいけないのが『週刊少年ジャンプ』なんだから、富樫にまだ頼っている編集部はヤバいのでは?」といった、厳しい指摘もある。
「本当は、富樫さんが今『もう一度描きたい』って言っても、『今さら何言ってるんだ』と、編集部が制さなきゃならないんですよ。それなのに、連載を喜んで再開させちゃうのは、ジャンプが弱体化していることの表れですね」(元編集プロダクション社員)
 1998年から連載を開始した同作は、アニメ化もされた大ヒット作品だが、開始翌年から徐々に休載が目立つようになり、2006年にはたった4回、2007年においては、この原稿の執筆時点で、まだ1回も連載誌上に掲載されていないのだ。公式にジャンプ編集部から発表された休載理由は「体調不良」「作者都合」といったものだが、休載の間に富樫がコミックマーケットに参加していたことなどから、「編集部との確執が原因で、連載がストップしているのでは?」など、穏やかでない憶測もファンの間で囁かれてきた。
 それにしても、1年半もの休載を経ても根強いファンを持ち続ける富樫義博とは、一体どんな人物なのか?
「週刊誌のマンガ家のほとんどは、その週その週で物語を考えているものですが、富樫先生は連載開始の時点で、だいたいのプロットを作っているんです。それに、アシスタントを使うと、自分は中途半端な仕事しかしていないように思うらしく、なるべく全部自分でやろうとするタイプ。だからこそ、連載中は肉体的にも精神的にも苦しみやすいようです(マンガ関係者)。
 一方で、別の関係者は、マンガ家・富樫義博への高い評価を示している。
「富樫先生ほどの完璧主義者は、本当に珍しい。編集者の中でも、『担当になるのは嫌だけど、あの人は天才だ』って、みんな認めているくらいです。ただ、付き合うのは本当に大変だそうで、締め切り直前は24時間つきっきりで、描き上げてもらうまで一言もしゃべらず黙々と待つのもザラだとか。で、描き終わった直後に原稿を投げられて、床に散らばった原稿を拾って入稿するらしいです(苦笑)」(フリーのマンガ編集者)】

(続いて、大御所、本宮ひろ志先生の自伝『天然まんが家』を吉田豪さんが解説したもの)

【その作風同様に、むやみに熱くて素晴らしいのが、本宮ひろ志の『天然まんが家』(集英社)。「家で日本刀振りまわして、新築の仕事場は常にメチャクチャになった」とか、梶原一騎的というか、本当にデタラメなまま生きてる感じが出てますね。特に読みどころは、作品と人生がシンクロするところ。本宮先生のマンガの中で、主人公が、喧嘩の前に女と失踪するってエピソードがあるんですけど、本宮先生も連載途中で「描けない」って言って、女と失踪するんですよ。「おまえとどこかで二人だけで暮らす。全部捨てた。おまえだけだ」ってカッコよく逃避行するんですけど、でもその後すぐに「やべぇ、淋病の薬忘れてきた……」って(笑)。だから抱き合って寝たんだけど、セックスはしなかったっていう、書かなくていい話も載せる、この懐の深さがいいですね。
 あと、自律神経失調症のことも赤裸々に書いてありますね。本当にマンガが人生そのものなんですよ。嘘がない。病気でマンガが描けなくなった本宮先生は、絵コンテだけ描いて、あとはアシスタントに任せるんです。「友人のマンガ家とかで絵のうまい人間を連れてきて『原稿料半分やるから下絵を描いてくれ』というのが始まった。女を描くのも、自分でやったらもうどうしようもないから、カミさんに頼んだりした」。それで、最終的には全然プロでもない、自分の兄にまで描かせているんですよ。「兄の描く下絵のほうが私より少しはうまい」って、マンガ家とは思えない発言が(笑)。でもそのおかげで絵はアシスタントに任せて、本人は週休6日でゴルフばっかりしてるっていう、現在の本宮プロのシステムが出来上がるんですけどね。これに感動して次の本を楽しみにしてたら、次はゴルフエッセイ本だった(笑)。】

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 ここに書かれている数々のエピソードが全部「事実」かどうかは僕にもわからないのですが(『サイゾー』ですし……)、マンガ家、とくに「人気マンガ家」なんていうのは、常人にはなかなか務まらない職業なのかもしれないなあ、という気がします。
 『HUNTER×HUNTER』の連載再開については、ネット上でもかなり話題になったのですが、どんな人気マンガであったとしても、ああいう形で「休載」を連発するような作品は「切られる」のが当然であるようにも思えます。今回の「復帰」については、確かに、あの『週刊少年ジャンプ』も、「客を呼べるマンガ不足」に悩んでいるのかな、というようにも見えるんですよね。
 今のジャンプだったら、あの江口寿史先生も「長期連載」が可能なのかもしれません。
 しかし、ここで紹介されている富樫先生の「人柄」と「仕事ぶり」を読んでいると、編集者っていうのも大変な仕事だよなあ、と同情してしまいます。「完璧主義者の天才」っていうのは、読者にとっては素晴らしい作品を生み出してくれる存在なのかもしれないけれど、「24時間つきっきりで黙って待つ」なんていうのは、すごい苦行ですよね、週刊誌だし。そもそも、僕がマンガ家だったら、締切りギリギリのときに周りにずっと誰かが待っていたら気を遣ってしまってかえって描けそうにないです。しかも、終わったあと、せっかく描いた原稿を投げるなんて……
 本当に毎週そんなに命削ってたら、そりゃあ、長期連載なんてムリですよね。

 そして、本宮先生のエピソードも凄いです。こちらもどこまでが事実かはわかりませんが、これが事実だとしたら「本宮ひろ志」というのは、すでに「ブランド名」みたいなものなのですね。ここまで来たらもう、「本人が描くほうが周りからしたら偽者っぽい」のではないかなあ。それでも「本宮ひろ志の作品」がヒットしていれば、本人は満足なのでしょうか? 「代わりを探すのも才能のうち」なのだろうか……本宮さんはもしかしたら、「経営の天才」なのかも。
 でも、こういうのって、アシスタントが自分の名前で同じ作品を描いても売れなかったりするのでしょうね。

 この「二人の人気マンガ家」の話を読んでいると、あまりこだわりすぎるのも問題があるし、「丸投げ」というのも作家としてはどうなのだろう、と考えさせられてしまいます。
 いずれにしても、「人気マンガ家になる」ことは大変なのでしょうが、「人気マンガ家であり続ける」というのは、それ以上に大変なことなのかもしれませんね。