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2007年10月01日(月)
新聞勧誘員に狙われるアパートと「歪んだ格差社会」

『週刊SPA!2007/9/11号』(扶桑社)の「文壇アウトローズの世相放談・坪内祐三&福田和也『これでいいのだ!』」第255回より。

【坪内祐三:ネットで共犯者を募って、3人で女の子を殺したって事件(8/26 愛知)。あれはちょっと、最近で一番なんかもう……

福田和也:携帯サイトでしょ。「闇の職業安定所」。嫌な事件だよね。

(中略)

坪内:共犯者の一人は朝日新聞の勧誘員(36歳)でしょう。

福田:たしかに新聞の勧誘員って、厳しい仕事なんですよね。いま、どの家にもインターホンがあるから、玄関口まで人が出ないじゃないですか。そのなかで、ガチャンと扉を開けて出てくる住人が多いのが安いアパートで、勧誘員もそうした場所を狙うんだって。『新聞社 破綻したビジネスモデル』(新潮新書)という本に出てました。元毎日新聞の人が書いたんだけど、ヤクザまがいの勧誘員が、所得が低そうなアパートを狙って、扉が開いたら靴突っ込んで契約するまで帰らない。生活キツい人が、同じようにキツい人を狙うってパターンでしょ。『新聞社』っていい本でしたよ。

(中略)

福田:あと、”相席殺人”ね。スーパーの飲食コーナーで午後3時に若者(25歳)が寝てて、そこへ「相席したい」という年配男性(67歳)がやってきて、腹を立てた若者が、年配男性を殴る蹴るで殺した、と。

坪内:だけど、一番知りたいことが書いてないんだよね。「相席」の瞬間、どういう形で若者がキレて、どうして屋外に出て、どうして誰も止めなかったのか――を知りたいんだけど。

福田:その加害者も、新聞販売店のアルバイトなんだよ。毎日新聞の配達と集金。毎日新聞社のコメントが出てた。「取引先である販売店の従業員が」って。直接の雇用関係はないよ、と言いたげに。夕刊を配る前に休んでたんだろうね。懲役12〜15年くらいかな。

(中略)

坪内:なんかさ、いまって10〜20代の若者よりも、30代のほうがキレるんだってね。30代の暴行事件が、ここ10年で5倍になってるらしいよ。

福田:それって「ロストジェネレーション」――就職氷河期で、バイトや派遣になってツラい目に遭っている20代後半〜30代後半ってことなのかな。】

〜〜〜〜〜〜〜

「新聞、読んでますか?」
 そう尋ねられて、「毎日読んでます」という人は、現在、どのくらいいるのでしょうか?
 僕はもう5〜6年くらい新聞をとっていないのですが、そのことでとくに不自由を感じたことはないんですよね。いや、もちろん「全然読まない」わけじゃなくって、職場で休憩のときに手に取ることはありますし、競馬の予想を見るためにスポーツ新聞を買うことも少なくはないのですが。

 まあ、それにしても、「新聞」というメディアが大きな過渡期を迎えているというのは間違いないような気がします。テレビと並んで「メディアの花形」だったはずの新聞は、近年、どんどんその影響力を失ってきているようです。もっとも、テレビのニュースやネットのニュースの多くは、「新聞社、あるいは新聞記者発」であることも事実なんですけどね。

 僕は基本的に「自宅に尋ねてくる人」というのが苦手です。アポイントメントなして自宅に尋ねてくる人というのは、ほぼ100%「迷惑な来客」なのではないかと思っているくらいです。電話に関しても、携帯電話の普及で「自宅にかかってくる電話は、セールスがほとんど」になってしまっていますしね。
 気が弱く、押しに弱い人間としては、「玄関先でセールスを断るための最大のコツ」というのは、「直接顔を合わせないで、門前払いにする」ことなので、インターホンというのは本当にありがたい存在です。

 ピンポ〜ン
「どちらさまですか?」
「●●新聞です」
「あっ、今新聞いりませんから」

 これが、インターホン以前の時代であれば、とりあえず玄関で勧誘員とひと勝負しなければならなかったわけですから……

 しかし、勧誘する側からすれば、このように「門前払い」されることが増え、そのうえ「新聞」というメディアそのものが斜陽であるというのは、非常に辛い状況のはずです。
「新聞くらい読んでおかないと、時代についていけませんよ!」
「ニュースはテレビとネットでみるから困ってません」
 実際、「記事を細かく読みこむひと」にとっては、新聞記事というのはかなり有益だと思うのですが、見出しをざっとチェックするくらいのレベルであれば、ネットのニュースとそんなに変わりはないんですよね。

 そして、「インターホンのある家」では商売が難しくなった「新聞勧誘員」たちは、「インターホンの無いような安いアパート」で、金銭的に余裕がない人たちを相手に、かなり強引な「勧誘」をしているというのは、なんだかもう哀しいというか、情けない話ではあります。

 たぶん、新聞勧誘員というのは、ものすごく辛い仕事なのでしょう。僕だって、自分があんなに「門前払い」を続けられたら、精神的に参ってしまうと思うもの。
 でも、お客の立場からすれば、「同情していたらつけこまれてしまう」と用心してしまうのも事実なのです。
 以前聞いた話なのですが、押し売りの人たちは独自のネットワークを持っていて、一度売れた家には、「この家は商売がやりやすいぞ」という評判が流れ、次々と他の押し売りもやってくるのだとか。「一度引っかかったから、しばらくはそっとしておいてあげよう」なんて、誰も考えてはくれないのです。

 そりゃあ、新聞記者たちは、それなりの「使命感」に燃えて記事を書いているのかもしれませんが、「新聞」というメディアが生き残っていくために、そういう「生活キツい人が、同じようにキツい人を狙うってパターン」が必要であるならば、「新聞」って何なのだろう?と僕は考えてしまうのです。「底辺の人たちから強引に搾取するシステム」がないとやっていけないような企業が、「社会の木鐸」なんて気取っていていいの?
 「格差社会」なんて記事を「押し売り勧誘員」の被害に遭った人に読ませているなんて、ちょっとシュールすぎないかな……