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2007年09月07日(金)
講談社の「アニメ化するマンガの『判断基準』」

『日経エンタテインメント!2007.9月号』(日経BP社)の特集記事「いま読みたい『原作本』100冊」より。

(「2大出版社の映像化への取り組みは?」と題した、小学館と講談社の自社作品の「映像化」に対するスタンスについての記事の一部です)

【日本映画界にとって、小学館はなくてはならない存在だ。毎年確実に大ヒットする『ドラえもん』『ポケモン』などのアニメに加え、2000年以降は、版権を持つ多くのマンガや小説の実写映画化にも積極的に乗り出している。こうした同社の映像化事業を一手に引き受けるのが、マルチメディア局である。担当役員の常務取締役、亀井修氏は、こう話す。
 「映画は、億単位のお金をかけたプロモーションだと考えています。ですから、本を売ることが第一の目的。勢いがついたのは、2002年の『ピンポン』がスマッシュヒットしてからです。その後、『世界の中心で、愛をさけぶ』と『いま、会いにゆきます』が、映画化を発表してから大きく売り上げを伸ばしました。そのときに『これか!』と思いましたね。本は仕掛けていけば売れるんだって」

(中略。以下は「講談社」の話になります)

 講談社の映像化で目立つのは、ドラマやテレビアニメだ。今クールでは『探偵学園Q』『ホタルノヒカリ』『山おんな壁おんな』『ライフ』と、4つのマンガ作品がドラマになっており、年間で14作品がドラマ化されるという。アニメも年間20作品が放映される。この映像化を担当するのが、取締役ライツ事業局長の入江祥雄氏だ。
 「4年前は、テレビアニメが年に2本だけでした。積極的に働きかけるようになってから、今のように増えたんです。映像化の目的は、やはり出版物への波及効果。昨年の『のだめカンタービレ』は、ドラマ化とアニメ化で3倍以上に増刷しました。売り上げでは60億円強の増加です。アニメでは『働きマン』の伸び率が『のだめ』以上ですし、今クールのドラマでも『ホタルノヒカリ』がとても伸びています。女性向け作品がよく売れる傾向がありますね」
 映像化はしっかりと年間スケジュールを組んで、計画的に進めているという。ドラマ向きの作品とアニメ向きの作品を分けることに始まり、放映されたとき自社の作品が各局で同じ時間帯にぶつからないような調整までするという。
 「映像化の判断基準は、1つには既刊本の巻数です。アニメの場合、定価410円の単行本で7冊以上が目安。巻数が多い作品ほど映像化による部数増が見込めます。ドラマはキャスティングの問題もあり必ずしも計画通りにはいきませんが、『ホタルノヒカリ』は1年以上前から積極的に仕掛けて、うまく実現した例です。一方、『探偵学園Q』はテレビ局から思いがけずオファーを受けたものです。すでに連載は終了し、過去に他局でアニメ化されています。こういうケースもあります」】

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 おおまかに言うと、「映画化」に積極的な小学館と、「ドラマ・テレビアニメ化」に重点を置いている講談社、という感じです。
 まあ、いずれにしても、最近の出版物の「映像化」に関しては、以前は「映像化の話が来るのを待つだけ」だった出版社側が、自分たちから映像化を仕掛けているというのは事実なようです。

 よく考えてみればちょっと不思議な話ではあるのですが、「映画化」というのは、書籍にとって、かなり効果的なプロモーションみたいなんですよね。『博士の愛した数式』や『そのときは彼によろしく』は、「映画化」されることによって、かなり本が売れたのではないかと思われます。その作品の「映画」そのものが大ヒットするわけではなくても、「映画化された小説」として書店に並ぶだけで、お客さんへのアピール度は違うようです。
 「映画化されるってことは、面白い作品にちがいない」っていうような先入観をなんとなく持ってしまう人って、たぶん、僕だけではないと思います。この記事のなかでも、小学館の亀井さんは、【『世界の中心で、愛をさけぶ』と『いま、会いにゆきます』が、映画化を発表してから大きく売り上げを伸ばしました】と仰っておられますが、「映画が公開されてから」ではなくて、「映画化を発表した時点で」大きく売り上げは伸びるのです。
 「映画は、億単位のお金をかけたプロモーション」というのは、まさに出版社の本音で、もしかしたら、「『映画化!』って宣伝だけして、映画は作らないのが一番儲かるんだけどなあ」なんて考えていたりするのではないか、という気もするんですよね。

 そして、僕がこの記事でいちばん驚いたのは、講談社の「映像化戦略」でした。「4年前はテレビアニメが年に2本だけ」だったにもかかわらず、いまや、アニメだけでも年間20作品。「ドラマ向きとアニメ向けの作品を出版社側で分類したり、作品が放送される時間帯まで調整」しているのだとか。さらに、「利益が大きくなるように、既刊本の巻数は映像化の判断基準にしている」などという話を聞くと、もう、「良質な小説や漫画を映像化する」というよりは、「映像化しやすいような小説や漫画を出版していく」時代になっているのだなあ、と考えてしまうのです。逆に、どんなに良い作品でも、巻数が少ないと、「儲からない」という理由で映像化されにくかったりもするのでしょう。

 まあ、『のだめカンタービレ』の「ドラマ化とアニメ化で60億円も売り上げアップ!」という実績からすれば、それもやむをえないかな、という気もするんですけどね。この出版不況の折でもありますし。
 考えようによっては、「お金のためだからこそ、あの『のだめ』だって映像化できた」のかもしれないんだよなあ……