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2007年08月13日(月)
もったいなくて、なかなか火がつけられない「国産の線香花火」

『経験を盗め〜文化を楽しむ編』(糸井重里著・中公文庫)より。

(「古くて新しい花火」というテーマの糸井重里さんと冴木一馬さん(花火専門の写真家)、宮川めぐみさん(花火師)の鼎談の一部です)

【糸井重里:ちなみに1発上げるお値段は?

冴木一馬:尺玉1発で5、6万円ほどです。打ち上げ料、1人の花火師さんの人件費込みで。今は結婚式でも花火を上げてくれるところがありますね。

糸井:世界の中でも日本の花火がいちばんきれいだという話をよく聞きます。

宮川めぐみ:日本の花火は本当にきれいです。

糸井:大きな違いはどこなんでしょう。

冴木:日本の花火は、さっき出た玉皮という丸い器に火薬を詰めるので、きれいな球状に開きますが、外国の花火は円筒形のパイプみたいなものに火薬を詰めるので、丸くは開かない。

宮川:それから色ですね。日本の花火は星かけ作業の時に、違う色の火薬を次々とかけていきます。だから打ち上げて星が広がった時に、緑色から赤色に変わったりするんですけど、外国の花火は色が変化しなくて、1色ずつです。

冴木:海外では製造はほとんど機械で、火薬をポーンとプレスしてドーンと作る。手作業で1個ずつ作るのは日本くらい。

糸井:宮川さんが好きな花火は?

宮川:やっぱりまん丸くてきれいな色のものですね。

冴木:僕もそうですね。菊や牡丹が球状に開くのを「割物」と言いますが、日本独特のものですから。ただ、日本のどこの花火大会でも海外ものは必ず混ざっています。筒状のもそうですし、丸いものでも人件費の関係で中国の工場で作らせたり。

糸井:花火といえば、家庭でやる線香花火は、昔のほうが火の塊がなかなか落ちなかった気がする。今は中国製でしょ。

冴木:あとベトナム、タイですね。線香花火は'99年に一度、日本製がなくなって、それがマニアの強い要望があって復活し、今、国内では3社が作っています。中国製だと10本の1束が100円とかですが、日本製は1本が300円くらい。

糸井:えーっ、1本が300円!

冴木:桐の箱入りの5000円のセットが、インターネットでだけ販売されています。一斉に注文が来て、製造が追いつかないそうですよ。

糸井:ほしがる気持ちもわかりますねぇ。

冴木:以前、業界ではナンバーワンと言われていた有名な女性が作った「三河牡丹」という線香花火がありました。たくさん花が咲くし、火花の飛び方、花のきれいさが、他のものとはまったく違う。その方が亡くなってからはマニアの間で1本1万円前後で取引されています。僕も5本持っていますけど、「1本1万円だしなぁ」と思うともったいなくて、なかなか火がつけられない(笑)。】

参考リンク:
純国産線香花火セット桐箱入(花火の専門店トヨタ)

線香花火のルーツ〜国産線香花火の消滅と復活(『マカロニアンモナイト』2005年8月号)


〜〜〜〜〜〜〜

 この対談は、『婦人公論』の2003年7月22日号に掲載されたものですので、現在の「国産花火の動向」とは、若干異なる可能性もあるのですが、あらためて「日本人の花火好き」と「日本の花火文化の奥深さ」を思い知らされるような話です。
 実際は、日本国内の花火大会でも、コストの問題もあり、海外産の花火がかなり使われているようです。「尺玉1発で5、6万円」ということは、それなりの規模の「花火大会」というのは、ものすごくお金がかかるのでしょうし、「国産」と「海外産」の「違い」にこだわる観客もそんなに多くはないのでしょうから。

 それにしても、ここで取り上げられている「国産花火の話」には驚かされました。今は国産花火も一部の「ブランド品」を除けば「1本300円」ということはなさそうなのですが、コンビニやおもちゃ屋などで売られている「一袋1000円の花火セット」に慣れている僕にとっては、「桐箱入り、5000円の線香花火セット」というのは、「なんて高い花火なんだ……」と驚かされるシロモノです。まあ、冷静になって考えてみれば、ちょっと飲みに行ったり遊びに行ったりするのにかかるコストと比較して、そんなに「理不尽に高い」っていうわけでもないんですけどね。むしろ「夏の思い出作り」のためには、安上がりなくらいかもしれません。
 とはいえ、実際に5000円出して桐箱入りの線香花火を買うというのは、やはりよっぽど好きな人じゃないと敷居が高そうではあるのですが。

 ここで紹介されている「1本1万円の線香花火」なんて、それこそ「伝説の芸術を鑑賞するための費用」としては、けっして「高すぎる」ものではないはずです。僕もこれを読んでいたら、一度は観てみたくなりました。
 花火っていうのは一度火をつけるとそれでおしまいだし、だからといって、火をつけなければ意味がない、それが最大の問題なのですけどね。