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2007年05月29日(火)
北野武監督「役者は”芝居”をするな!」

「週刊SPA!2007/5/29号」(扶桑社)の「トーキングエクスプロージョン〜エッジな人々」第484回、映画監督の北野武さんと作家・演出家・俳優の松尾スズキさんの対談記事です。取材・文は北尾亮さん。

【松尾スズキ:各役者さんについて、お聞きしたいんですけど。まず、岸本加世子さんは、ここ数年の北野映画には必ず出演されていますね。

北野武:加世子ちゃん、自分は当然出るもんだと思ってるからね(笑)。カメラマンとか照明さんと同じような感じで「次の作品はいつごろやるの?」なんて言われるもん。

松尾:気分は製作チームだ(笑)。

北野:そう(笑)。で、これは俺の映画に出た人はわかると思うんだけど、とにかく「演技を作ってこないで」ってのが北野組の掟。もちろんセリフは覚えといてくれないと困るけど、あとはもう何も用意せずに来てほしいんだよね。加世子ちゃんはそれがわかってるから、実にニュートラルに撮影現場に来るんだよ。ときどき役を作ってきちゃう人がいるんだけど、セリフの前後を入れ替えるだけで混乱しちゃって困る。だから「セリフは覚えても、そのセリフに合わせた演技プランは立ててこないでください」って言うんだ。そうじゃないと役者って”芝居”をしたがるんだよね。特に清純派女優なんか、すぐ女郎かなんかになって雨んなか道に倒れてワンワン泣きながら男の名前叫んだり、そういうのがいい芝居なんだって思っちゃってる。

松尾:それじゃ、五社英雄の映画になっちゃいますよね(笑)。そういえば、今『hon-nin』で「ビートたけしのオールナイトニッポン傑作選!」というのを連載させていただいていますが、『戦場のメリークリスマス』の時点で、すでに「映画は監督のもの、役者なんてバカでいい」という趣旨のことをおっしゃってますね。

北野:だって、犬に演技プランを説明するヤツはいないでしょ? 犬は悲しいと思ってなくても、悲しい音楽を流して尾っぽを振ってりゃ悲しく見えるし、逆に楽しい音楽に合わせてテンポよく編集すれば楽しそうに見える。でも、犬の表情は違ったりしないわけで、人間だって同じようなもんなんだよ。決められたセリフを言って、最低限の演技をしてくれればいいわけ。ところが「私は悲しい演技をしてます!」「楽しい演技をしてます!」というように役者が主張するってことは、「私はとんこつ味のラーメンです」とか「私はしょうゆ味です」って自分から言うようなもんであって、そうすると監督は「私は味噌味が好きなんだけど〜」とか客に言われて困るんだ。だから、そんなこと主張せずに役者は「ラーメンです」って言ってりゃいいんであって、麺が太いとか細いとかいう演技はするなって。観てる人が自分に都合のいいように考えられるのが、一番いい演技なんじゃないかと思うんだけどね。

松尾:そういう意味でも僕、たけしさんが寺島進さんを好んで起用する理由は、なんとなくわかるんです。寺島さんと一度、現場で一緒になったことがあるんですけど、言われたこと的確に演じるから、「素材に徹していて、すごくいいな」と思ったんです。】

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 映画監督・北野武にとっては、役者というのは、あくまでも「記号」にすぎないのでしょうか? このインタビューを読んでいると、正直「これはどこまで北野監督の『本音』なのだろう?」と悩んでしまいます。だって、北野映画で最も印象深い役者のひとりである「ビートたけし」は、けっして、ものわかりのいい役者のようには思えないんですよね。いや、「ビートたけしは、ビートたけしなんだ」ということで、確かに「他の誰かを演じようとはしていないのかな」というようにも見えるのですけど。

 それにしても、ここまで「映画は監督のもの」だと公言している映画監督はほとんどいないのではないでしょうか。その一方で、【観てる人が自分に都合のいいように考えられるのが、一番いい演技なんじゃないかと思うんだけどね】という発言からは、「観客の視点」も感じられます。もしかしたら、「演技論ばかりが先走って過剰な自己満足の演技しかできない役者たちが嫌い」なだけなのかもしれませんが。

 僕はこの対談を読んでいて、「大人計画」という劇団の主宰者であり、自らも脚本家・演出家、そして役者でもある松尾スズキさんは、この北野監督の「役者論」を聞いて、どう思ったのだろう?と興味があったのですが、結局、この対談のなかでは、松尾さんは聞き役に徹しておられて、「自分の意見」をハッキリと表明されてはいません。大先輩相手でもあり、なかなか激論を闘わせるわけにはいかなかったのでしょうけど、それはちょっと残念でした。
 これを読んでいると、「それなら、北野監督は素人ばかりを出演させて映画を撮ればいいんじゃないか」とも感じたのですけど、【決められたセリフを言って、最低限の演技をしてくれればいいわけ】という、その「最低限の演技」っていうのがまた、「誰にでもできるってものじゃない」のですよね。
 「どんこつラーメンです!」って自己主張するのはうるさすぎるけど、「ラーメン」にはなっていなければならない。これって、実はものすごく難しいことなのだと思います。