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2007年04月15日(日)
「ストーカーを呼ぶ男」の哀しき体験談

『神菜、頭をよくしてあげよう』(大槻ケンヂ著・角川文庫)より。

(大槻さんがいままでにつきまとわれた、さまざまな「ストーカー」たちについて。大阪でのライブの後、ホテルのロビーまで女性に追われ、間一髪で難を逃れたという話に続いて)

【ノイローゼの体験などを書いたりするからなのか? どうも私はこの手の、思い込みが激しすぎる方から一方的に想いを寄せられてしまうことがある。
「弟子にしてください」
 と言って連日マンションの前で張っている少年ストーカーもいた。
「君、ホモか?」
「いえ女好きです。大槻さんと一緒ですよ」
 余計なお世話である。
「お近づきの証しにこれあげます」
 コンビニ袋に入った車のプラモデルであった。
「西部警察」で渡哲也が乗ってた改造スカイラインだ。
「大槻さん、一緒に作ってください」
 やっぱりホモだったのかな〜とも思う。
「来週水曜、青山の××で会いましょう」
 と、手紙でデート先を指定してくる女性もいた。もちろん行くわけがない。するとまた手紙が来てこう書いてあった。
「ごめんなさい。先週都合ができちゃって行けませんでした。次の待ち合わせ場所を決めておきますね。来週の火曜に日比谷の××で6時」
 あくまで指令を下したいようなのだ。
 指令の手紙はある時を境にピタリと来なくなった。どうしたのかなと思っていたところ、彼女のお母さんより手紙が来た。娘は自殺した、とあった。長いこと鬱病で苦しんでいたそうだ。私のCDや小説が宝物であったとのことで、一度くらい行ってあげればよかったかな、と。しかし、まぁ、行ったところで彼女の病が治るわけでもなく、むなしさばかりが残る結末となった。
 暗い話になってしまった。
 なんにしろ他人につきまとう心理とは、結局のところ自分の人生のむくわれぬ部分を他者によって補おうと試みる不毛の行為である。考えるまでもなく、他人によって自分が完成することなど有り得るはずもないのである。人間は自分の穴さえヨイショコラショと自分自身で埋めていかなければならぬマッチポンプの業を背負っているのである。その作業のためには他人につきまとっている暇など無いはずではないか。
 他人にすがる前に自分を信じてみろよということである。
 とはいえ、そういった理屈が通用しないところがつきまとう人の困ったところなのだ。
 以前、あまりに危なくつきまとうお客さんをスタッフが一喝したところ、号泣しはじめた。そして泣きながら彼女はこう言ったのだ。
「私、やっと気付いてもらえたのね!」】

〜〜〜〜〜〜〜

 なんだかもう、いたたまれない話だなあ、としか言いようがない「ストーカーにまつわるエピソード」の数々です。自身でも書かれているように、大槻さん自身も病気の話を書かれていたりするために、「困った人々」の共感を呼びやすいという面はあるのでしょうが、有名人というのは、やはりいろいろと大変なのだろうなあ、と考えてしまいます。ストーカーのお母さんから「娘は自殺しました」という手紙をもらえば、大槻さん自身はそれまで「至極当然の対応」をしていただけであっても、「もし自分が一度でも会ってあげたりしていれば、こんな結果にはならなかったのではないか?」などと、「責任」を少しは感じてしまうのではないかと思いますし。たとえそれが理不尽な「自責の念」であったとしても、誰かが自殺してしまった、という事実の前では、それを心から完全に消し去るのはかなり難しいことだと思うのです。

 ストーカーの「標的」となってしまうのは本当につらいことだろうけど、だからといって、ストーカー予備軍にだけ見えないように芸能活動や執筆活動をしていくわけにはいかないだろうしなあ。そもそも、大槻さんの場合には「ギリギリのところ」を狙って商売していると言えなくもないわけで。

【なんにしろ他人につきまとう心理とは、結局のところ自分の人生のむくわれぬ部分を他者によって補おうと試みる不毛の行為である。考えるまでもなく、他人によって自分が完成することなど有り得るはずもないのである。】
 まさにその通りだと思うのです。でも、多くの人は、「自分で自分を完成させることなんてできない」(あるいは、そう思い込んでしまっている)のです。「芸能人」や「ミュージシャン」たちが食べていけるのは、多くの人たちが、「むくわれない自分の身代わりとして」彼らを応援しているから、でもありますし。
 危なくつきまとうことしか、自分の「存在」をアピールする術を知らないなんて、なんだかもう、とても悲しくてせつない話だよなあ。
「私、やっと気付いてもらえたのね!」って、そこまでして「ただひたすらに、自分の存在を相手に認識させたい」という人を理屈で「説得」することなんてできるのかな……