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2007年03月19日(月)
元人気アイドルの「デビューして貧乏になっちゃった話」

『元アイドル!』(吉田豪著・ワニマガジン社)より。

(『ジェームス・ディーンみたいな女の子』というキャッチフレーズが印象的だった、大沢逸美さんと吉田豪さんとの対談の一部です。大沢さんの「アイドル時代」のお金についての話)

【吉田豪:ホント冷めてますね(笑)。もともと大沢さんが芸能界を目指したのは両親に家を建てたかったからだそうですけど。

大沢逸美:うん、それだけです(あっさりと)。とにかく、お金持ちになりたいっていうか、お金が欲しかった。

吉田:ダハハハ! 自分の欲みたいなものはなかったんですか?

大沢:ないですよ。洋服もアクセサリーも全然興味ないし。比較的冷めてたので、小学校の頃から「両親は私が食べさせなきゃいけない」と思ってましたね。

吉田:そういう思いで芸能界入りしたのに、皮肉にもデビューしたことが両親への嫌がらせにつながっちゃったわけですか。

大沢:そうですね。私がデビューしてから実家に帰ると、それまで住んでたアパートの全員が集まっていい顔してるんですけど、私がいないところでは散々なこと言ってたらしいんですよね。「あの家ではお金が右から左へ流れてる」みたいに。その妬みで、父なんて10年くらい乗ってる車をビーッって傷つけられて。たぶん、聞こえるような陰口も言われたんじゃないですかね。

吉田:確実に儲かってなんかいないんですけどね。著書によると、衣装代も自腹で大赤字だったわけだし(笑)。

大沢:そう! 当時はスタイリストさんとかみんな付いてないですから、自分で衣装を持って、お化粧して、衣装代は私にみんな伝票がついてたんです。

吉田;衣装代が自腹で、給料から寮費も引かれるから、デビューして貧乏になっちゃったっていう話は衝撃的でしたよ!

大沢:最初は、すぐお金持ちになれると思ってたんです。「お金持ちになりたいから芸能界」っていうのがありましたから、もうビックリですよね。「えっ、バイトと変わんないじゃん!」って感じで(笑)。

吉田:それどころかバイトは衣装代かからないですからね(笑)。

大沢:制服は支給してくれますもんね(笑)。あと、親もレコードをまとめ買いするだろうし、「娘をよろしく」みたいので付け届けもしていたでしょうし。

吉田:結局、大沢さんも事務所に前借りを繰り返すことになって。

大沢:全部払い終わったのが22〜23歳のときでしたからね。

吉田:それだと、歌番組とか出る気もなくならないですか? また衣装作んなきゃいけないんだ……」って感じで。

大沢:いやいや、そんなのなんにも考えてないんですよ。だって私が払ってるわけじゃないから。要は18歳ぐらいまでは全部親のところに請求が行ってたわけだし、こっちはそういうものだと思うじゃないですか。でも、違う事務所の子たちは「社長にステレオ買ってもらった」とか「ドレッサー」買ってもらっちゃった」とか言ってるんですよね(笑)。まあ、そういう事務所はみんな潰れてますけど。

吉田:結局、ホリプロは正しいってことなんですかねえ(笑)。

大沢:他の事務所の子は、みんな衣装どころか私服も買ってもらえたの。だけど私の場合、スタイリストさんがいっぱい持ってきてくれた服をマネージャーさんが「俺のプレゼントだよ」みたいな言い方するから「うわっ、ありがとうございます」って言ったら、それも全部ツケで(笑)。「ちゃうやん!」みたいな。別に私は欲しいって言ってないのに……。

吉田:これでホリプロ上場の秘訣がわかった気がしますね(笑)。

大沢:「そりゃ自社ビルも建つわな」みたいな(笑)。】

〜〜〜〜〜〜〜

 大沢さんのヒット曲『ジェームス・ディーンみたいな女の子』が発表されたのが1983年だそうですから、僕にとっては、「ちょっとお姉さん」という感じの年齢のアイドルだったということになります。そういえば、テレビで「なんだか男みたいな女の人が出てるな」と思いながら観ていたような記憶もありますし。

 僕はこの大沢さんの話を読んでいて、「これって、どこの悪徳プロダクション?」などと考えていたのですけど、この恐るべき「アイドルから搾取するプロダクション」の正体が、あの有名な「ホリプロ」だったなんて……

 大沢さんは「ホリプロ・スカウトキャラバン」の第7代グランプリ受賞者で、榊原郁恵さんや堀ちえみさんらを輩出しているこのオーディションは、当時から「アイドルのエリートコース」というイメージがありました。でも、その「エリートアイドル」だったはずの大沢さんに対しても、当時のホリプロはこんな感じだったというのは驚きです。芸能人になって、しかも売れているにもかかわらず「プロダクションに借金していた」なんて、そりゃあ、周りの人も信じてくれませんよね。少なくとも今の和田アキ子さんがそんなに「搾取」されているとは思えないので、「若いうちは薄給で、這い上がってきてベテランになればそれなりの待遇」ということなのかもしれませんが、これを読んでいると、芸能プロダクションというのは、「共同出版」で儲けようとしている「自費出版社」に似ているところもありそうです。

 これも考えようによっては、「衣装にではなくプロモーションにお金を遣っている」可能性もありますし、それこそ「衣装代は出してくれるけれども肝心の仕事を取ってきてくれないプロダクション」あるいは「良心的だけれども多額の借金を抱えて潰れてしまうプロダクション」よりは、「アイドルには金銭的に渋くても、ちゃんと黒字を計上して安定しているプロダクション」のほうが、長い目でみれば「優れたプロダクション」なのかもしれません。大沢さんも「そりゃ自社ビルも建つわな」と苦笑しながら、現在もホリプロ所属ですしね。

 現在はここまで酷くはないとしても、アイドルというのは「彼ら、彼女らが実際に稼いでいるお金」に比べたら、はるかに薄給のようです。そんなの信じられない、理不尽だ、と僕も思うのですが、結局、「それでもアイドルになりたい女の子」が大勢いるかぎり、アイドルは搾取され続ける運命なのかもしれません。