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2007年01月16日(火)
角川文庫『夏の100冊』の恐るべき「影響力」

『本の雑誌・増刊 おすすめ文庫王国2006年度版』(本の雑誌社)より。

(「角川文庫『夏の100冊』ができるまで」という記事の一部です)

【さて、今回の取材の目的は、「夏100」ができるまでの過程を明らかにすることである。1973年、角川文庫は「夏の文庫フェスティバル」を開催。'79年には読書感想文コンクールを開くなどして、やがて新潮文庫、集英社文庫と合わせて3社が「夏100」と呼ばれるようになった。最近では各出版社の参入も相次いでいるが、やはり規模からいえばこの3社が圧倒的に強い。たとえば角川文庫の規模を販売部に訊いてみると……。
「およそ6000軒の書店さんで展開してもらっています」
 おお、ということは、全国の書店の数を約2万軒としてカウントすると、およそ3割の書店に「夏の100冊」がずらりと並んでいることになる。アトランダムにふらふらと書店に入れば、3回に1回は「夏100」に出くわす計算になるのだ。
 しかも書店へは「夏100セット」として卸されるのだが、このセットにはABCDの4種類があり、いちばん大きいAはなんと750冊! 大型書店の中にはAセットをふたつ注文し、さらに毎週のように追加注文で補充をするところもあるというから驚きだ(なんだかこう書くと大食い選手権みたいだ)。
 どうやら「夏100」は予想以上に大規模なフェアのようである。
「そうなんです。下手に新刊を出すよりもはるかに売れますから」
 出荷の規模は他のフェアのおよそ10倍だとか。いやはや、すごいですねえ。それは力が入るでしょう。
「ええ、もう年中、夏のフェアのことを考えてますよ」

(中略)

 さらに、「夏100」には、こんな効用も。
「『夏の100冊』に入れますから、という話を作家にすることで、作品を角川文庫に入れることを了承してもらったりするんだ」
 もともと、元版の時点で角川から出ている本は50〜60%程度。あとは角川以外の版元から出たものを文庫化するのだという。その際に、「夏の100冊」は作家に文庫化を認めてもらうための大きなアピールポイントになるのだ。なるほど!
「だから文庫本の編集者には、いかにいいものを外から持ってくるかという目利きの力も求められるね。自社のものは、雑誌から単行本、そして文庫化という流れがわかってるわけだから」
 また、「夏100」に入れるタイミングで、表紙を新しく変えることも多々あるという。文字を大きくしたり、あらすじを入れたり、解説を変えたり、年表を付けたり、といったマイナーチェンジをして、中高生が手に取りやすいよう工夫したり、逆に年配の方の支持を得られるようにもする。「夏100」は、様々な読者のニーズに応える願ってもないチャンスなのだ。

「『何年後に文庫になったら夏のフェアに入れられる』とか計算します」
 そう語る角川文庫販売部は、「ずばり『夏の100冊』のコンセプトは?」との質問にはっきり次のように答えた。
「角川文庫の代表選手を選びたい」
 新潮文庫にはまだまだ売上の面では及ばない(らしい)のだが、「うちはうちで、新しい、これからの『名作』になるような本を揃えていきたい。すでにそれだけのものが揃いつつあるなという自負もちょっとだけある」と抱負を語る。「『夏の100冊』で代表選手が売れてくれる、それが角川文庫全体の勢いにつながってくれると信じています」】


参考リンク:角川文庫「夏の100冊」
(蛇足ですが、参考リンクの「夏100」を眺めていて、「宮崎あおいさん、この仕事を引き受けたのなら、もうちょっと本を読んだらいいのに……」とか、ちょっと思ってしまいました)

〜〜〜〜〜〜〜

 「夏の100冊」といえば、1年中本屋に入り浸っている僕にとって「ああ、世間はそろそろ夏休みなんだなあ」とちょっと悲しくなる季節の風物詩なのですけど、「夏100」というのが、他の文庫フェアに比べて、ここまで突出した規模のものだなんて考えてもみませんでした。「出荷の規模は他のフェアの10倍」なんて!

 僕の今までの「夏100」への印象というのは、「中高生向けの歴史的名作や比較的読みやすい本が多めのフェア」で、「現在の人気作家の場合、『代表作』というよりは、初期の佳作が中心」というものでした。ひらたく言えば、「ちょっと若者向けだよなあ」とか「この作家だったら、あっちのベストセラー作品を選べばいいのに」という感じです。

 ちなみに「夏100」は、その年の9月には、もう「反省会」が行われ、11月に翌年のラインナップ原案が出て、2月にラインナップが確定するのだとか。実際は、「売っているのが夏」というだけで、ほとんど1年中「夏100」のためにスタッフは動いているのです。むしろ、「夏100」をやっている最中が、いちばん何も考えなくてもいい時期という感じなのかも。
 そして、「『夏100』に入れますから」というのが、作家への「殺し文句」になっているということからも、このフェアの影響力の凄さをうかがい知ることができますよね。

 参考リンクのラインナップを見ると、僕からすれば「こんな作品まで?」と思うものも含まれているのですが、実際はたくさんの角川文庫のなかから、選びぬかれた「精鋭」が、この「夏100」で、100冊のうちで売り上げの芳しくなかったものなど半数くらいは、毎年入れ替えられているそうです。選ばれるだけではなくて、生き残っていくのも大変みたいです。