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2006年12月22日(金)
「アダルトチルドレン」だった、アメリカの大統領たち

『西原理恵子の人生一年生2号』(小学館)より。

(「西原理恵子のこの人に会いたくない。」という対談記事の一部です。参加者は、西原理恵子さんと松野行秀さん(沢田亜矢子さんの元夫。「お騒がせの人」として、ワイドショーなどで一時期はしきりに取り上げられていました)、小田晋(精神科医)、キャンディ・ミルキィ(女装雑誌編集長)、卯月妙子(漫画家、ライター、AV女優)の5名です。ただし、引用部では、卯月さんは発言されていません。自分を「病んでいる」と自覚する4人が、精神科医の小田先生にアドバイスを求めている部分です)

【松野行秀:西原さん、僕のこと嫌ってません?なんか僕のこと誤解してるでしょ?

西原理恵子:え、ぜんぜん誤解してませんよ。みんなで幸せになろうと。そのために今日小田先生をお迎えしたわけで。精神科医の権威、小田先生にいい方法を聞いて全部解消してしまいましょうと。

小田晋:そんなことできません。できるはずがない。僕はドラえもんでもなければハクション大魔王でもない。分析はできても、全部解消なんてできっこない。

西原:でも、なんかちょっとすっきりしましたよ。

小田:そもそも解消すべきなんでしょうか。皆さん、ひと言で言ってしまえば、アダルト・チルドレンなんです。一時流行語みたいになったんで、最近じゃ、このひと言でみんなわかってしまうけど。じゃあ、そのアダルトチルドレンっていうのができないように、親は手を上げちゃいけないとか、子供にそうしたら親は子供に謝るべきだって言うけど、僕、ちょっと待てよって思うんです。アメリカの大統領でロナルド・レーガンっていたでしょ。

西原:父ブッシュの前の。

小田:そうです。あの人もね、オヤジがアル中なんですよ。で、家庭内暴力。それから典型的なのはビル・クリントン。あの人は母親のおなかの中にいたときにアルコール依存症の実父は交通事故死。で、母親は再婚するんですけど、相手はこれまたアルコール依存症で、家庭内暴力を振るうんですよ。自分の弟や母親を乱暴な父親からかばわなきゃいけないわけですよ。しかも殴り返してかばうわけじゃなくて、まあまあってなだめるようにかばってたんです。だから彼は「14歳のときにオレは40歳ぐらいの気持ちだった。俺はアダルトチルドレンだ」って自評してるんです。

西原:アメリカ大統領の政策にはのらん。死んでもっ。

小田:でもね、その生活のお陰でビル・クリントンは丸く治めるのが特異だったんですよ。それが出世していくのにすごく役に立ったと。

キャンディ・ミルキィ:だからそれ、ただ「悪い」で終わらすものでないと。

小田:そうです。どっちも確かに父親はドメスティックバイオレンスでアルコール依存症です。でも2人とも大統領になったじゃないかと。

西原:とにかく全部依存症とか中毒って名前をつけるべきなんでしょうかねぇ。だってどこからどこまでが、おかしいかなんてわからないじゃないですか。

小田:診断すること自体はまったく問題ないです。でもね、診断名をつけることでは何の解決にもならないです。

西原:そうですよねえ。変なところ、劣っているところをいちいちしらみ潰しにするべきなのかなあ、って思う。】

参考リンク:「アダルトチルドレン」(Wikipedia)

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 ロナルド・レーガン、そしてビル・クリントンという2人の元アメリカ大統領は、クリントンさんの「不適切な関係」事件などいくつかの問題点はあったものの、現在のアメリカでの人気・評価は非常に高いようです。でも、この2人に、こんな「共通点」があったというのは初めて知りました。
 
 この「アダルト・チルドレン」という言葉なのですが、実際はさまざまな解釈があって、明確な「定義」は現在でも確定していないのです。参考リンクの記述によると、【原義は「アルコール依存症の親のもとで育ち、成人した人々」を指す言葉(Adult Children of Alcoholics, ACA, ACoA)である。1970年代、アメリカの社会福祉援助などケースワークの現場の人たちが、自分たちの経験から得た知識で、名づけて呼び始めたもの】だったそうなのですが、現在では【幼少時代から親(血縁上の親とは限らない)から正当な愛情を受けられず、身体的・精神・心理的虐待を受け続けて成人し、社会生活に対する違和感があったり子供時代の心的ダメージに悩み、苦しみをもつ人々の総称】と考えられているようです。そういう意味では、レーガン、クリントン両氏は、原義通りの「古典的な」アダルトチルドレン、ということになるのです。今はもう、とにかく「子供時代に親にイヤなことをされたから、私はアダルト・チルドレン!」みたいな使い方をする人も少なくないようですが、逆に、子供時代に親にイヤなことをされたことが全然無い子供もいないと思いますから、これはもう「程度問題」だとしか言いようがないし、昨今はかなり「濫用」されがちな言葉ではあるんですよね。レーガン、クリントン両氏の場合は、そういう「自称アダルトチルドレン」みたいな生易しいものではなかったみたいですが。

 アメリカの大統領というのは、現在の地球上でもっとも権力を持っている人間のひとりなのですが、あの自信家で豪腕のイメージがあるクリントン前大統の最大の「武器」が子供時代にアルコール依存症の父親の家庭内暴力から他の家族を守るために学んだ「調停能力」だったというのは、すごく意外な気がします。確かに、強気一辺倒では、あの若さで頂点に登りつめることはできなかったのでしょうが、それにしても「悲しい過去」ではありますよね。「そういう子供の頃の経験がプラスになった」という評価に対して、クリントン前大統領本人は、「余計なお世話だ」「もっと明るい少年時代を送れていたら、大統領になんてなれなくても良かった」と思っているかもしれませんけど。