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2006年07月22日(土)
「売れない文庫本」たちの逆襲

「ダカーポ・588号」(マガジンハウス)の特集記事「この本を読め!本好きの本屋さんからの直言」より。

【大学卒業後の家業を継いで20年余り。久住さんは、札幌市西区で60年の歴史をもつ「くすみ書房」の2代目である。
「バブルの崩壊と若者の活字離れ、さらにナショナルチェーンの進出などで、町の本屋は青息吐息。売り上げはピーク時の半分に落ち込み、全国で毎年、1000店舗を超える書店の廃業が続きました。売り上げを伸ばそうと、何年も努力を続けましたが、ほとんど打つ手がない。それが3年前の状況だったんです。
 残る道は店を閉めるか、移転するしかない。久住さんは社員にそう宣言して、最後の頑張りのヒントを得ようと、片っ端から本を読んだ。

(中略)

 売り上げを伸ばす努力に怠りはなかった。だが、売り上げを一切考えないで、人集めだけを意識した取り組みをしたことはない。でも、どうしたらいいのか……。長年温めてきたアイディアの1つが浮かんだ。
「新潮文庫の注文書は、売れ行き順位がABCの3ランクで格付けされています。ちなみにCランクは1500位まで。Cランク以下の文庫本は無印で、その数700点。この無印本だけを集めてフェアをやったら面白いだろうと考えていたんです」
 売れない文庫本ばかりを集めても売れるはずがない――そんな常識を友人にぶつけると、それは面白い、でも、無印本では分かりにくい。「なぜだ!?売れない文庫フェア」にしようということになった。
「ところが、店長は焦っていると、全社員が猛反対。これほど反対されるのなら面白いかもしれない。さっそく新潮文庫の売れ行き順位1501位以下の700点、地味だけど味のある、ちくま文庫の800点を取り寄せ、フェアの準備を始めました。
<<『次郎物語』が本屋にないのはなぜ? 売れていないから本屋は置かない。本屋にないから目に触れない。そして絶版になり、消えていく。でも、本当に売れないの?>>
 店長手づくりのチラシには、売れる本ばかりを扱う大手チェーン店へのささやかな抵抗、そして町の本屋のレベルアップの思いが込められた。
 文庫フェアは'03年10月27日の読書週間初日から、年内いっぱいの約3か月の予定でスタート。文庫本の表紙が見えるよう、1500点すべてを「面出し」で店内に並べた。
 いよいよ初日。開店前から地元紙『北海道新聞』が紹介したフェアの記事を見た人たちから電話が殺到。シャッターを開けた途端、近隣の読書ファンが「売れない文庫本」見たさに押し寄せた。
「地元のテレビ局が取材にきたり、昼過ぎにはお客さんで身動きがとれないほどの大変な騒ぎでした」
 '03年11月の売り上げは、前年同月の約15%増。文庫本の売り上げは2.8倍を記録。売れない新潮文庫の売り上げベスト20を集計したら、1位は「次郎物語」の7冊だった。
「7冊といっても各1冊しか仕入れていないから、売れると補充の注文を繰り返す。驚異的な数字だと思います」】

〜〜〜〜〜〜〜

 「売れない文庫フェア」が大幅な売り上げアップに繋がったというこの話は、まさに「発想の転換」と言えそうです。でも、確かに「ベストセラー」というのはどこの本屋にでも置いてあるものですが、「売れない本」というのはなかなか目にする機会がないわけで、「どんな本が『売れてない』のだろう?」というのは、本好きにとっては、ややブラックながらも大きな興味をそそられるものだと思います。それも、単に「売れていない」だけではなくて、新潮文庫に収録されて現在発行されているということは、「それなりの価値がある」と少なくとも一時は評価されていた本なわけですから。
 それにしても、注文書の段階で、本が「売れ行き順位」で格付けされているとは、全然知りませんでした。

 僕が本屋で読みたい本を探すときには、「この本を買いにきた」という指名買いのときを除けば、だいたい平積みにされている新刊書・文庫に目がいきます。それ以外には、書棚の間を歩きながら、好きな作家の名前のところを一通りチェックするくらいです。よっぽど時間がなければ、棚に並んでいる本の一冊一冊を手に取ってみるのは不可能ですから。CDでは「ジャケット買い」というのがありますが、文庫本はとくに、旧いものになると同じような装丁の本が背表紙しか見えない状態で並べられていることがほとんどですから、よっぽどインパクトがあるタイトルでもなければ、なかなか「一目ぼれ」はしにくいものです。これだけたくさんの本が出版されていれば、やっぱり、書店側が「売りたい!」とアピールしてくれるかどうかというのは、非常に大きなファクターだと思われます。「売れている本」には、周囲の人々と感想を伝えあうという楽しみもありますしね。
 そして、書店が応援してくれない本は、どうしても「売れない本」になりがちで、なおさら人の目に触れる機会が失われていくのです。本当は、「多くの人が手にとってくれさえすれば、大ベストセラーになっていたかもしれない本」であっても。

 しかし、この記事を読んで、ちょっと暗い気持ちになったのは、こういうアイディアを実現させるためにも、ある程度の書店の規模は必要だということなんですよね。この「くすみ書房」には、4300点の文庫本が並べられているそうなのですが、僕が子供の頃に通っていた「おばちゃんがやっている、町の小さな書店」レベルでは、ここまでやるのはやはり難しいでしょう。
 僕も「町の小さな書店を応援したい」と思いつつも、品揃えが多い大規模書店でまとめ買いをしてしまうことが多いのが現実です。最近はamazonなどで家に居ながらにして、「田舎ではなかなか見つからない本」を探すこともできるようになりましたし、「町の書店」にとっては、受難の時代はまだまだ続きそうです。都会であれば、「専門書や1つのジャンルに特化する」ということも可能なのかもしれないけれど。

 それにしても、「売れない文庫」700冊を前にして、「やっぱりなあ…」と頷いたり、「この本も売れてないのかよ!」って憤ったりするのって、けっこう愉しそうですよね。