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2006年01月06日(金)
几帳面な「究極のめんどくさがりや」

「執筆前夜〜女性作家10人が語る、プロの仕事の舞台裏。」(クリエイターズワールド編集部・編、新風舎)より。

(女性作家10人への作家になったきっかけや「書くこと」に対する考えかたなどについてのインタビュー集。(30代独身女性=)「負け犬」の生みの親、酒井順子さんの回の一部です)

【高校時代に早くもエッセイストとして活躍していた酒井さんだが、卒業して、大学に進学。校則もなくなり、晴れて本名での執筆を開始する。大学では、体育会の水上スキー部にも所属し、超多忙な日々を送るようになる。

酒井:原稿は江戸川の河原で膝を抱えながら書いてました。クラブの練習を江戸川でやっていたので。練習の帰りに銀座のマガジンハウスに寄って、ご飯を食べさせてもらって帰る、というような生活でした。

 そして、大学卒業後、エッセイストとしてのキャリアを持ちながら、”みんながすることをしてみたい”という気持ちから、酒井さんは就職をする。しかも、大手広告代理店の総合職という、それだけでも二十四時間では足りないような激務が想像される職場である。当時もだいたい五、六本の連載を抱えていたというが、締め切りを破ることはなかった。

酒井:締め切りを守らないほうが、編集者から電話がかかってきたりとか、かえって面倒くさいことが多いんですよ。だから、会社の仕事はやらなくても締め切りは守るっていう(笑)。でも、当然、会社には会社の仕事が一番ってことにしてあったわけですが。】

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 結局、酒井さんは、「周囲から有能な社員としてみられること」と「自分自身ではダメ社員としか思えない」という2つの自分のギャップに耐えられなくなり、【十年後に自分が何をやっていたいかと考えたとき、会社員ではなく、やっぱり物書きだなあって思った】ということで、会社をやめて執筆に専念されることになります。それでも、「就職はしてよかった」と仰っています。
 この酒井さんのインタビューのなかで僕がいちばん印象に残ったのは、【締め切りを守らないほうが、編集者から電話がかかってきたりとか、かえって面倒くさいことが多いんですよ】という言葉でした。「それでも守れないから、みんな苦労しているんだ!」と言い返したくもなるのですが、考えてみたら、締め切りを守れない理由なんて、「やる気が出ない」とか「めんどくさい」というような、けっこういいかげんなものであることが多いのです。にもかかわらず、僕なども「締め切り間際になって頑張る、『やるときはやる』自分」に、よく酔っていたりするわけで。考えてみれば、「めんどくさいから」という理由で物事を先送りにしていくと、将来的にほとんどのことは「さらにめんどくさくなる」のです。例えば、公共料金の支払いを「めんどくさいから」という理由で滞らせていれば、延滞料金もつくし、コンビで簡単に払うこともできなくなります。それこそ、その場では面倒に感じても、期限内にちゃんと払ったり、あるいは、最初から銀行振り込みにしてしまったほうが、「結果的にはラク」なんですよね。
 こういう「締め切り」にしても、遅れれば催促されることによってイライラしたりするし、いちいち電話を取ったり、言い訳を考えたりするのは、確かに、かえってめんどくさいのですよね。催促する側にも迷惑がかかりますし。
 実は、「締め切りをキッチリ守る」という点では、正反対のイメージの「ものすごく几帳面な人」と「究極のめんどくさがりや」は、結果的に同じ行動をとるのかもしれません。
 ほんと、あらためて言われてみれば、「ちゃんとやるのが、いちばんの近道」なんですよね。まあ、そう思っていてもなかなか実行できないのも現実なんですけど。