初日 最新 目次 MAIL HOME


活字中毒R。
じっぽ
MAIL
HOME

My追加

2005年10月11日(火)
世界は、「マゾヒスト」のためにある!

「ダメな人のための名言集」(唐沢俊一著・幻冬社文庫)より。

【『仕事ほど私を魅了するものはない。私はそれを座ったまま何時間でも見ていられる。』〜ジェローム・K・ジェローム(イギリスの小説家)】

(この言葉に対する、唐沢さんのコメントの一部)

【「世の中に寝るほど楽はなかりけり 浮き世の馬鹿は起きて働け」
 という、人間の本音をあからさまに言った(言い過ぎた)歌があるが、正直な話、こう思わぬ者はいないだろう。戦後のエログロ雑誌の投稿で、マゾヒズムの性癖がある読者の体験記として、
「仕事は肉体労働できついものでしたが、もともとマゾヒストの私にはそのつらさが快楽だったため、現場監督にも認められて、出世が出来ました」
 というものがあり、報復絶倒したことがある。労働を愛するなどというのはマゾヒズムでしかない。ライオンや虎のような猛獣だって、獲物を仕留めて腹が満腹になると、次に腹が減るまでは、なんにもしない。だから動物園でエサが十分に与えられることがわかると、もう、あとは昼寝ばっかりしているのである。怠惰は決してダラクではない。生物としての本能なのである。
 もちろん、その怠惰を許される状況を得るために、人は努力をしなければならぬ。江戸時代の商人たちは若いうちは食うものも食わずに努力して身上を増やすことに努め、四十くらいになるとさっさと隠居して、余生を趣味三昧に暮らした。】

〜〜〜〜〜〜〜

 まあ、こういうふうに「労働を賞賛する姿勢」というのが人間の人間たる所以なのかもしれませんけどね。しかし、そういうのって、考えようによっては、確かに「自然の摂理に反すること」です。自分が生きていくのに必要な量以上の「獲物」を求めるのも、基本的には人間だけですし。
 僕も正直、「ラクして寝て暮らせたらいいなあ」と思うことばかりなのですが、万が一、実際にそういう立場になってみると、「社会の役に立っていない自分」を責めたりしそうなのです。もともとそんなに「社会の役に立っている」わけでもないのだろうけど、そういうレールから外れてしまうというのは、やっぱり怖い。
 それにしても、この「労働好きのマゾヒストの話」というのは、なかなか凄いというかなんというか。でも実際に「仕事中毒」の人というのは、「真面目だから」というだけじゃなくて、それが「快楽」なんだろうなあ、と思うことも多いのです。そして、人間社会では、「勤勉」=「正しいこと」という解釈が一般的ですから、「この人は好きで働いているみたいだけど、それに全部付き合わされてはかなわないなあ…」という、「マゾヒスト」ではない人間としては、なかなか辛い状況というものがあるのです。「俺は夏休み無しで働くけど、オマエはどうする?」なんていう上司がいたりすると、それはそれで社会人としては辛いんですよね。
 今の世の中というのは、定年まで働いても、死ぬまでの生活の保障なんてないわけで、いくら江戸時代の平均寿命が短かったとしても、「40歳くらいでさっさと隠居」は、ちょっと羨ましい気がします。
 世界は、どんどん「マゾヒスト向け」になっていく一方なのです。