初日 最新 目次 MAIL HOME


活字中毒R。
じっぽ
MAIL
HOME

My追加

2005年01月12日(水)
『リアル鬼ごっこ』の魅力を奪うな!

「このミステリーがすごい!2005年度版」(宝島社)の「行列のできるミステリー相談所」より(構成・文:福井健太)

(読者の『リアル鬼ごっこ』(山田悠介・幻冬舎文庫)という作品を読んで「困惑」したのだが、プロの書評家は、このような作品をどう評価しているのか?という相談に対しての回答。回答者は、福井さんの他に、杉江松恋さんと米光一成さん。)

【司会:この件は福井さんからどうぞ。

福井:自費出版やインターネットで発表された小説が大手から刊行され、ベストセラーになるケースが増えています。これは好ましいことですが、そこで気になるのが、出版社のクオリティコントロールの問題。山田悠介の『リアル鬼ごっこ』は、2001年に文芸社から刊行され、2004年に幻冬舎文庫に入ったんですが……

米光:文芸社版が、いいんですよ!中学生の気持ちにもどって、友達がノートに描いた落書き漫画を読むようなノリで楽しむのがコツです。「最後の大きな大会では見事全国大会に出場」って、馬から落ちて落馬してかよッってツッコミながら読むんです。「真っ暗だった。森の中は本当に真っ暗で視界が一気に閉ざされた。目の前の物しか確認できず、目を少しでも離せば愛がどのあたりにいるのかも見失ってしまう。それ程、森の中は真っ暗なのだ」って、どんだけ真っ暗なんだッ(笑)。

福井:「二人が向かった先は地元で有名なスーパーに足を踏み入れた」……。

米光:「今一度、翼は辺りをキョロキョロさせながら」とか。辺りがキョロキョロするんですよ(笑)。十行に1個くらいの勢いで出てくるんですから、こういうのが。ここまでくると芸ですよ。

(中略)

福井:最初にインターネットで「こんなにひどいのがあるぞ」って話題になったんですよね。笑うためのネタとして言及された。それが影響力をもって、そこまでひどいのなら買おうという人が出てくる。そうすると現実に売れるわけで、そこから雪だるま式に売れて、大手出版社が連絡してくる。そのスパイラル現象はどうなんだろうという違和感があるんですよ。

米光:最後は「この話は人々の間とともに長く受け継がれていく」って、日本語がへっぽこなのがまたいい味だしてるんですが、ヒーローになっちゃうのも、ダメ学生願望ノリ。でも、残念なことに、そういったへっぽこなところが、文庫版では直ってるんです。

司会:読み上げてもらった部分は、文庫版ではどう直されてるんですか?

米光:「大会」の重複はなくなってるし、へっぽこで面白いところがほとんど直されてて、文庫版は、ただのつたない話になっちゃってるんですよ。中途半端なことしちゃダメですよね。】

〜〜〜〜〜〜〜

 ちなみに、上の引用は原文のママです。
 確かに「中途半端なことしちゃ、ダメ」かもしれない。
 この「リアル鬼ごっこ」は、とにかく「話題になっている」というのは聞いていたのですが、確かにこれは凄い!
 でも、僕はこの本が売れていた「本当の理由」というのを知らなくて、本屋でパラパラめくってみて、「どうしてこれが売れるんだろう?」と疑問に感じてもいたのです。この文章を読んで、確かに「これは凄い作品だなあ」ということがわかりました。まあ、まさか本屋さんで宣伝コピーとして、「拙い日本語で『2ちゃんねる』で話題の…」なんて書くわけにもいかないし、「これだけ売れているんだから、面白いんだろう」ということで買って悶絶してしまった人も多いのではないでしょうか…
 しかしながら、大勢の人が読めば「面白い!」と感動する人が出てきたり、「あれだけ売れているんだから、これはいい作品なんだよなあ」と自分に言い聞かせた人もけっこういるのかもしれませんね。

 それにしても、この日本語はやっぱり凄いなあ。「ネットの力」というのは、こういう「トンデモ本」に属するような本をベストセラーにしてしまうくらいになっているのですねえ。最初に「ネタとして」楽しんでいた人たちは、まさかこんなに売れるとは思ってもみなかったでしょうけど、出版不況に悩む出版社としては、「売れる本なら、内容は問わない」のもいたしかたないところなのでしょうか。でも確かに「大手出版社の良心」として「日本語を更正」してしまった幻冬舎版は、「単につまらない話」になってしまっているようです。そういう意味では、「幻冬舎は、わかってない!」のかもしれないし、文庫版だけを読んだ人は、この小説の「真髄」を味わっていないわけですよね。幻冬舎の人の担当者は、わかっていて更正したのか、ちょっと気になるところではあるのですが。

 でもなあ、こういう話を読むにつれ、「売れてしまうこと、知られてしまうことの怖さ」みたいなものも感じるんですよね。山田さんは「狙っていた」わけではないでしょうから、「作家としては、ちょっと違和感のある日本語」を全国にばら撒いてしまったわけですから。多くの人に読まれれば印税もたくさん入って嬉しいのはもちろんだろうけど、その一方で「なんでこんなのが売れるんだ!」と批判する人も当然たくさん出てくるわけです。それこそ、「同人誌に発表」しているレベルなら、仲間うちで「厳しく批評」される程度ですむのでしょうけど。
 「世界の中心で、愛をさけぶ」が、どちらかというと「別にものすごくヘンとまでは思わないが、こんなに売れるのはおかしい!」という判断基準で批判されていたのに比べて、この『リアル鬼ごっこ』は、明らかに「ネタ」として面白がられて売れているわけですし、これだけ言われていれば、山田さん本人の耳にも、この手の嘲笑は届いているに違いありません。ここまで来れば「知らないふり」をする以外の選択肢はないのかな。

 御本人は「俺の小説のほうが、『DEEP LOVE』よりは遥かに上だな」とか悦に入っていたりして…