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2004年06月05日(土)
まず、「ドラえもん」を全巻買わなくちゃ、と考えた。

「ぼくドラえもん・第6号」(小学館)に寄稿された、よしもとばななさんの「共通の言葉」という文章より。

【子供ができたとき、まず考えたことは「ドラえもん」を全巻買わなくちゃ、ということだった。「ほかにやることあるでしょう?」と今は冷静に思えるけれど、そのときはとにかくそうしなくちゃ、と思ったのだ。

 私は幸福なことに、「ドラえもん」の中に出てくる子たちとほぼ同じ時代を生きている。おやつはどら焼きで、まだ居候なんていう概念が生きていて、海外旅行が珍しくて、原っぱや土管があるあの時代だ。

(中略)

 この漫画が存在すること自体がすでにビッグなビジネスであることを、藤子先生は意識していなかったわけではないだろう。でもなによりも、読者の子供たちに向かって先生は描いていた。一日一日の時間をけずって、もしかしたら命もけずって、先生はこの日本の社会にある種の健全さを示し続けていたのだと思う。

(中略)

 私は、私の息子にも無造作に、いつもその辺にある本として、読みながらいつのまにか寝ちゃってよだれがついてしまうような感じで、ドラえもんを読んでほしい。それで、せりふとか考え方とかの中に、自分も参加しているみたいな気持ちになってほしい。いつのまにかあの漫画に出てくる生き生きとした人たちが息子の中にも友達みたいに存在していてほしい。のび太くんは映画以外では全然ヒーローじゃなくてなまなましく弱いけれど、その弱いところも嫌いにならないで、許してほしい。】

〜〜〜〜〜〜〜

 よしもとさんは僕より7歳年上ですから、「ドラえもん」のリアルタイムな印象は、僕よりもさらに強いんだろうな、なんて思います。
 僕も「ほぼ同世代」ではあるのですが。
 
 子供ができたときに、まず考えたことが「ドラえもんを全巻買い揃えること」だったというのは、僕にはとても印象深い話でした。
 僕は旅行の準備をする際に「着替えとか歯磨きセット」よりも先に「旅行のあいだに読みたい本」をピックアップするのを優先してしまうタイプなので。
 もちろん、現実問題としては「ドラえもん全巻」よりも必要不可欠なものはたくさんあったのだろうけど、よしもとさんが最初にそんなふうに考えたというのは、彼女のやや浮世離れした人柄とドラえもん、そして生まれてくるわが子への愛情が伝わってくる話なのではないでしょうか?

 世の中には、いろんな褒め言葉があるとは思うのですが、「自分の子供に読ませたい」というのは、最上級の褒め言葉なんじゃないかという気がしますし。

 僕も「ドラえもん」が大好きな子供でした。そのころの僕は、ドラえもんが出してくれるひみつ道具に憧れて、「僕だったら、あれをもっとうまく使いこなせるのに」と苛立たしく感じたり、「さようなら、ドラえもん」の回で、ドラえもんが安心して未来に帰れるように、ボロボロになって自分ひとりでジャイアンと闘ったのび太の姿に涙したりしていたものです。
 
 大人になった僕には、本当は、ドラえもんに出てくるキャラクターたちは、みんな弱くて、ずるくて、ワガママな連中だということがよくわかるのです。でも、それこそ「人間」なんだよなあ、という気もしてくるのです。だからこそ、憎めないし、共感できるのでしょう。
 第一「ドラえもん」って、映画版以外でハッピーエンドの話は、ほとんどないんですよね。

 子供にとっての「健全さ」って何だろう?もう大人になってしまった僕にとっては難しい問題です。
でも、この文章を読んで「真剣に子供のほうを向いているけど、子供騙しじゃない」ってことなのかな、なんて考えました。

 僕も、自分の子供に「ドラえもん」をさりげなく読ませたいなあ、と思っています。きっと気に入ってくれるのではないかなあ、と。
 とはいえ、子供にとっては、僕は「サザエさん」を観ているときのような印象で、「近所にこんな公園なんてありえない…」とか感じたりするのかもしれませんけどね。