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2004年03月14日(日)
残念な「バウムクーヘンの穴」

「どぜうの丸かじり」(東海林さだお著・朝日新聞社)より。

【ぼくは最近テレビで知ったのだが、バウムクーヘンは心棒にケーキの生地を垂らしては回して焼き固め、また垂らしては焼き固め、そうやってだんだん太くしていく。
 その一回転、一回転があの年輪状のスジになる。
 実に気の長い話で、焼きあがるまでに一時間かかるそうだ。
 心棒の長さは1メートル近く、焼きあがったところでそれを抜き取る。
 その抜き取った穴が件の穴なのだ。
 その穴をじっと見つめている一家の胸のうちに、ある共通の思いが込みあげてくるのであった。
 それは”残念”であった。
 もしこの穴なかりせば、の思いであった。
 穴なくしてそこんところにもケーキが詰まっていたならば、の思いであった。
 残念の思いは、次第に怒りに変わっていくのだった。
 怒りの原因になっているのは、”ズル”である。
「この穴はズルだ」「ズルの穴だ」。】

〜〜〜〜〜〜〜

 この東海林さんのエッセイを読んで、僕はようやく「バウムクーヘンの穴」に対する積年の疑問から解放されたような気がしました。いや、本当はどこかで一度くらいは聞いたことがあるんでしょうけど。
 今ではコンビニとかで普通に売られているバウムクーヘンですが、僕が子供のころは、「頂き物」でもないかぎり、なかなかお目にかかる機会がない代物でした。白いクリーム(?)がかかった、「ユーハイム」のバウムクーヘンなんて、本当に大御馳走だったものなあ。親にかくれてこっそり、「ちょっと一切れだけ」のつもりが、いつの間にか一目でわかるくらい減ってしまって、気まずい思いをすることもしばしばでした。
 そういえば、あまりに勿体なくって(貧乏性ですから)、あの年輪みたいになっている層を一層ずつ剥がして食べたりしていたものです。さすがに、そんなにちょびっとずつ食べると、味はよくわからなかったような。
 あの穴が、バウムクーヘンの「風情」なんでしょうけど、当時は、「材料費ケチってるよ、木の真ん中に穴なんか開いてないのに!」と内心忸怩たる思いだったものです。だいたい、こんな穴、ないほうが作りやすいんじゃないの?とか。
 でも、この作りかたからすると、あの「バウムクーヘンの穴」っていうのは、必要不可欠なものなんですね。あの頃の僕に、「その穴に罪はない」と教えてあげたいくらい。

 最近は、バウムクーヘンも全然珍しい食べ物じゃなくなって、あの穴の存在に気をとめる人も少なくなってしまったんだろうなあ。

 しかし、今ふと思ったのですが、バウムクーヘンの心棒って、あんなに太くないとダメなの?やっぱり、ちょっと誤魔化されているような気も…