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2003年12月02日(火)
「村上春樹の軽い小説」と「日本の重い小説」

時事通信の記事より。

【現代の日本文学をロシアに紹介する日本文学シンポジウムと詩の朗読会(国際交流基金など共催)が27、28の両日、モスクワで開催中の第5回国際知的図書見本市の会場で行われ、日本から気鋭の作家・詩人・歌人ら5人が出席。最前線の日本文学の魅力をロシアの若い世代にPRした。
 村上春樹氏の翻訳小説がベストセラーになるなど現在のロシアは日本文学ブーム。これを機に、両国間の知的文化交流拡大を図る企画で、作家の島田雅彦氏は「村上春樹氏のファンタジーだけでなく、日本の重い小説も読んでほしい」と訴えた。】

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 「現在の日本でいちばんノーベル文学賞に近い作家は、村上春樹だと言われている」という話を先日聞いて、びっくりしました。海外でも読まれているという話は耳にしていたのですが、そんなに人口に膾炙しているとは。
 村上さん自身も、海外作家の翻訳もされていますし、海外文学への造詣も深いようですし。

 とくにロシアでは、村上春樹作品は、吉本ばななさんの本と並んで、日本人の贔屓目ナシの大ベストセラーなのだそうです。書店にも平積みにされており、売り上げランキングの上位に入っているのだとか。
 なんでも、日本作家の作品が海外で訳される場合、英語版をさらにその国の言葉に訳する、という形式がとられるのに、村上春樹作品のロシア語版については、日本語からロシア語に直接訳されており、もとの作品に近い状態で読めるのも魅力、だそうです。

 しかし、この島田雅彦さんの発言を読んで、僕はなんだか腑に落ちませんでした。
 「村上春樹の作品って、軽い?」
 島田さんが本当にそう言われたのか、記事を書いた記者が意訳したのかはわかりませんが、少なくとも、内容的に「村上春樹は『軽いファンタジー』というのは、ちょっと偏見なのではないかなあ、と思ったのです。

 というわけで、実際にロシアで訳されている作品を調べてみたのですが、「羊をめぐる冒険」(1998)、「ダンス・ダンス・ダンス」(2001)、「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」(2002)、そして、「ノルウェイの森」(2003)。計6作品が訳されているそうなので、あと一作品あるはずなのですが、今回その作品名はわかりませんでした。

 確かに、このラインナップだと、村上春樹作品の中では初期〜前期にあたり、「軽いファンタジー」なんて言われるのも仕方がないかな、という気がします。
 「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」とか、「ねじまき鳥クロニクル」とかも訳されていて「軽い」とか言っているんだったら、島田さんはすごい偏見の持ち主だと思うのですが。

 僕の印象としては「軽い」というよりは、「テンポが良くて読みやすい」なんですけどね、初期の村上春樹作品って。
 それにしても、この「軽い」なんて言う表現は、ちょっとバカにしてるんじゃないかなあ、島田さん。
 日本語は通じないと思って普段思っていることが口から出てしまったのか、それとも、島田さんは英語(もしくはロシア語)で話していて、訳者がニュアンスを掴みきれていなかったのでしょうか?

 ちなみに、村上春樹作品の訳者の一人は「社会主義や集団主義から解放され、自己との対話を始めたロシア人。“心の奥にしまっていた気持ちに気づかせてくれた”とのメールが届く」と語っているそうですよ。

 「もっと日本の作品を知ってもらいたい」という島田さんの気持ちはよくわかるのです。
 でも、その一方で、ロシアの人たちが村上春樹の作品を読むのは、彼が日本人だからという理由だからじゃないんですよね、きっと。
 星の王子様」のサン・テグジュぺリが好きなら、同じフランス人作家のプルースト「失われた時を求めて」も読んで、とか言われても、大部分の読者は困惑するばかりでしょうし。

 だいたい、「重い小説」が読みたかったら、ロシアにはその道の大家がたくさんいるわけですし。
 トルストイとか、ほんとに「重い」ものなあ…