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  ハンニバル・ライジング
2007年05月09日(水)  

監督:ピーター・ウェーバー
主演:ギャスパー・ウリエル / コン・リー 2007年

 第二次世界大戦下のリトアニア。ドイツ軍の爆撃を受け戦火の中で家族を失い、収容されたソ連の孤児院で青年期を向かえたハンニバルは、やがて施設を脱走、生家に残された手紙を頼りに唯一の血縁である叔父を尋ねてパリへ向かうが叔父は既に亡くなり、遺されたのは叔父の妻である美しい日本人女性レディ・ムラサキであった。叔父の遺産を受け継ぐ叔母ムラサキの暖かな支援で高等な教育を受けたハンニバルは医学学校に入学、後に入手した麻薬から封印された過去の記憶を蘇えさらせていく。



1991年「羊たちの沈黙」2001年「ハンニバル」2002年「レッド・ドラゴン」に続くシリーズ四作目。今回は、天才精神科医にして冷徹な殺人鬼、レクター博士の誕生(ライジング)に秘められた謎を解く、という触れ込みだった。

冒頭の静かな森と湖の場面から一転して戦争シーン。「プライベート・ライアン」のノルマンディ上陸のシーンのように色彩を押さえながらも残虐でリアルな視界の中に登場するのはまだあどけなさの残る少年ハンニバル・レクター。

正直に言えば、この時点でハンニバルのライジングの理由付けは読めてしまい、ストーリーは案の定という展開で進んでいく。
結局は「戦争被害者の戦犯に対する復讐劇という展開」なので、猟奇的な殺人鬼の謎には遠く、肩透かしをくらったような気持ちにはなる。どう考えても、戦争被害=「羊たちの沈黙」以降のハンニバルの謎とはかけ離れていて、ハンニバルは反戦映画ではなかったはずだし、仮にそうであったとしたら、おぞましい殺人鬼の秘密として納得するにはかなりの難がある。だからかどうか、ハンニバル役のギャスパー・ウリエルはなかなかのイケメン(そういう評価しかないんかいっ!)だったが、後のレクター博士の、あの音も立てずに素足で歩く様には結びついていかない。

更にレディ・ムラサキ。最初に画面に現われた時の表情、特に口元が「ザ・ラストサムライ」の小雪を彷彿とさせるようで、美しい日本女性のイメージがあの映画で染み付いてしまったのではないかと思えるほどだ。
しかし、演じているのは中国人女優で、アメリカ映画の中の日本人女性=中国人女優というのがなんとも時代遅れのアメリカ映画を観るようでこそばゆくて仕方ない。
「硫黄島の手紙」や「ザ・ラストサムライ」での日本の掘り下げ方、描き方から比べるといかにもリアルさに欠けて、中国人が日本人の役をやっているというシラケさ加減はどうしてもつきまとう。途中現われる中国語の文字やら(日本人以外は日本語だと思うだろう)小道具などがあれだけの大作の割に物足りなくてチョトマテクダサイなのが寂しい限り。
次回は日本が舞台となるとどこかで読んだので、是非ともその辺りは徹底的に追求してもらわないとね♪と思うのである。


ではでは、面白くなかったのかというと実に面白かった。(笑)
始まりから終わりまで物語にぐいぐいと入り込んでいかせるのはさすがである。私は戦争シーンの時点で他の作品と孤立した一つの作品として観ていたと思う。

全体に重苦しいこれまでの作品、特に二作目「ハンニバル」の”古都の華やかな雰囲気も始終暗い色調の画面から漂う不吉な匂いで払拭されたフィレンツェの描き方はどうにも後味が悪いし、三作目の「レッドドラゴン」での闇から闇の世界から比べると、どの画面の風景も美しい、または平和そうなのである。そんな風景の中で怒る残虐さがより際立ってしまうのだから何とも怖いが、そんな手法はやっぱりさすがなんだろう。

ハンニバルは絶対にやられないと解っているのだから、次は誰がどのような手で彼を狙い、そして彼はどのような手で返すのか。鮮やか過ぎるほどの手口と、憎たらしい戦犯の描き方がいつしかハンニバルを見守る姿勢となり、猟奇的な殺人を犯すことには共振性がないにも関わらず、この復讐劇を心情的に守るような形で観ている自分がいたりした。

色んな意味で、原作者トーマス・ハリスがいかにストーリーテラーであるかという事は否めず、また監督の力量でもあるのだろう。となるとやっぱり大作なのか。なんだかなぁ〜と思いながら、おお!と観ているわけだからして。

だから名作とは少しズレる。と言っておススメ度はどうかというと、一押しニ押しの映画である事には違いないという、何とも矛盾した作品。(笑)
チャンスがありましたら、是非、観ないよりは観ていただきたいと思うのでありますよ。「バベル」よりも…たぶん。


あ〜、「ダイ・ハード」のマックレーンが「なかなか死なない」なら、ハンニバルは「なかなか殺れない=キル・ハード」だわって感じで、やっぱり次作も気になるのでありますよ。
出来ればチョト軌道修正なんぞお願いしたいけど。



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