月の輪通信 日々の想い
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2004年08月18日(水) 銭洗い

脱水の終わった洗濯機のふたを開けてびっくり。
濡れてくしゃくしゃになった1万円札がはらり。
え?え?と思っていたら、続いて5千円札、千円札・・・・。
や、やってしまいました。
父さんのお財布、丸洗い。

年に何度かあるんだよな。
ジーンズやエプロンのポケットに物を入れたままのお洗濯。
財布のほかにも、万歩計とか腕時計とか鍵とか、小銭とか・・・。
ポケットティッシュ丸洗いにも泣かされるけれど、気分的に痛いのは腕時計。生活防水オンリーの腕時計は、一回洗濯機にかかると、8割がたオシャカになる。懲りもせず何度もやって駄目にするので、最近ではすぐ壊れても惜しくない1000円均一のおもちゃ時計しか使わなくなった。
赤いサインペンを一緒にお洗濯したときには、白いシャツや体操服がぜーんぶ桜色に染まって参った。
洗濯機を回す前に、ちょっと確認すればいいだけのこと。
それが分かっているからこそ、やってしまうと妙に落ち込む。
かかって悔しい落とし穴。

盆の上に、濡れた紙幣やらカードやらを広げて干す。
あーあ、うっとおしい。
このお札、なんだか色が薄くなったみたいな気もするけど、大丈夫かなぁ。
レシート類は破れてぼろぼろになるのに、さすがにお札は破れていない。
よっぽど丈夫な紙を使っているのかしらん。
妙な感心をしながら、父さんの財布の中身を日向に広げる。
お盆のふちに洗濯バサミで、紙幣をパチンパチンとはさんで留める。
この日差しなら、数時間もすれば、お札も財布もバリバリごわごわに乾くだろう。

とりあえず残りの洗濯物を干しておこうと、洗濯籠を広げてまたびっくり。
真っ白のバスタオルに、濃いグレーの染み
財布の中にはいっていたレシートか何かのインクが移ったらしい。
あらら、また一仕事増えちゃった。
でも、白だし、漂白剤をかければいいか・・・と思っていたら、あら大変。
この間、加古川のおばあちゃんに買ってもらったアプコのお気に入りのピンクの半ズボンのお尻に、でっかいグレーの染み。
どうやら、バスタオルとアプコのズボンが被害を一手に引き受けてしまったらしい。
こっちは漂白剤をかけたりしたら、きっときれいなピンクがまだらになって、散々なことになってしまうだろう。
アプコの見ていないところで、洗剤をいっぱいつけてこすってみたけれど、一向に落ちそうな気配はない。
汗だくになって、ごしごしやっているところをこれまた運悪く通りかかったアプコに見られた。
「なに、やってんの?」
この子はホントに勘がいい。内緒でいいもの食べてるときや、見られて都合の悪いことをやっているときには必ずといっていいほど顔を出す。
「あのね、父さんの財布に入っていたレシートのインクがね・・・。」
仕方なく事情を話す。

唇をへの字に結んで汚れた半ズボンをじっとにらんでいたアプコ。
「お気に入りだったのになぁ、おかあさん、お父さんに怒っといてね。新しいズボン、大事にしようと思ってたのに・・・。」
それだけ言って、どこかへ姿を消した。
もっとわんわん泣いて怒るかと思ったのに、ちょっと拍子抜け。
ま、いいか、もう一枚、似たようなズボンを買ってやれば気が済むかも知れない。ちょっと気が軽くなって、汚れたズボンを濃い洗剤液の中に漬け置きして、お昼ご飯の準備にかかった。

お昼、仕事場から帰ってきた父さんに午前中の騒動を説明する。
盆の上で生乾きになった財布をみて、父さんしばし呆然。
そこへとんできたアプコ、
「もう!おとうさんのお財布のせいで、アタシの新しいズボンが汚れちゃったよ。おばあちゃんに買ってもらったお気に入りなのに・・・!」
と猛抗議。
ぷっと膨れたアプコに父さん、いまいち状況がつかめぬまま、ごめんごめんを繰り返す。
さっきのあっさりした反応とはうってかわって、いじいじねちねちと繰り返す抗議に、しまいには上の兄弟たちがカチンと来た。
「父さんだって、わざとやったわけじゃないよ。アプコ、もうそれぐらいにしときな。怒ってもズボンが元通りになるわけじゃないんだから。」
オニイ、おねえに叱られて、ますます膨れるアプコ。
完全に拗ねて、ひざを抱えてうつむいてしまった。

父さんがわざとやったわけじゃないのも分かってる。
汚れたズボンがもう一度まっ更にならない事もよく分かってる。
でもやっぱり悔しいんだよね。
いっぱい抗議して、どんなにこのズボンが好きだったか聞いて欲しかったんだよね。
さっさと「ごめん」と謝られて、悔しい気持ちを「もういいよ」と封じ込めてしまわなくてはならないのが悔しかったんだよね。
小さいアプコの頭に、こんなに複雑な葛藤があることをお兄ちゃんおねえちゃんはまだ理解してくれない。
突然の事態に頭が真っ白な父さんも、アプコのほんとの悔しさには気づいていない。
「似たようなズボン買ってくるよ。」
と、弱り果ててはいるけれど、アプコがホントに大事なのはおばあちゃんと一緒に買ったあのズボンなんだよね。

泣きべそのアプコと一緒に、漬け置きのズボンをもう一度広げてみる。
みると、あんなに大きく広がっていた染みがあら不思議、ずいぶん薄くなっている。
「完全に元通りにはならないけど、これだったら履いてもおかしくない位にはきれいになるかもしれないね。」
汗と涙で汚れたアプコの顔をタオルでぐいぐい拭いてやる。
アプコの顔に、ほんのちょっと笑みが戻る。
「ああ、おなかすいた、早くご飯食べておいで。」

「確かに洗面所でジーンズを脱いだけれど、洗濯機に入れた覚えはないんだけどな。」
後になってもちょっと納得のいかない顔の父さん。
私だって、いれた覚えはない。洗面所に脱ぎ散らかしていく服のポケットの中身くらい出しておいてもらいたい。
うちじゃあ、洗面所に脱いである服は「洗濯する物」ということになっている。私じゃなくても誰かが気を利かせてぽいと洗濯機の中に放り込んでおくことだってあるんだから。
・・・洗濯機を回す前に確認を怠ったわが身の責は棚に上げて愚痴を言う。
いろいろ大変だったんだから、私の愚痴もちょっとは聞いといてね。
素直な父さんは盛んに首をひねりながらも、悪かったねとただただ謝罪。

数十分後、ぱりぱりに乾いたお札を持って、父さんと上の3人の子供たちは約束していた映画を見に、町へ出かけた。
アプコのズボンの染みは漬け置き洗いで意外にきれいになり、何とか支障なく着られそうだ。
全く困ったもんだねぇと、アプコと二人、みんなに内緒のアイスを食べる。
そういえば、父さんの洗濯済みのバリバリ紙幣、自動券売機を通るんだろうかねぇ。

ところで「銭洗い弁天」なんてのが、確かにあった。
お金を霊験あらたかな水で洗うと、金運がよくなってお金持ちになるんだって。
夏休み、何かと出費のかさんだ我が家には、霊験あらたかな弁天さんのご加護がぜひとも戴きたいところ。
やっぱり洗濯機洗いじゃ無理だよねぇ。
財布を洗うと、金運が落ちるという話も聞いた事があるような・・・。


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