月の輪通信 日々の想い
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8月12日、アプコの誕生日。 ずいぶん前から下見していたイチゴのケーキ。 なでるとくんくん反応する犬のおもちゃ。 みんなでワイワイ、回転すしディナー。 我が家の姫君、満面の笑みでハッピーバースディ。
6歳になったら、自動車に乗るときのジュニアシートも卒業になる。 いつも、運転席の後部座席で行儀よくシートベルトを締めていたアプコ、本日はじめてお母さんのトッポの助手席に乗る。 「おかあさん、ここ涼しいねぇ。」 おんぼろトッポは冷房の効きが悪く、これまでのアプコの指定席はとっても暑いのだ。 クーラーの風をほっぺたに受けて、6歳のアプコの笑みは可愛い。
アプコの名前は「あさみ」という。 出産の朝、ベランダに咲いていた大輪の朝顔にちなんで命名した名前は、オニイが当時のクラスメートから募集したたくさんの名前の中からえらんだ。
小学校1年生のときのオニイの作文。 「おかあさんが、このごろ太っているとおもったら、5人目の赤ちゃんが、うまれるそうです。おかあさんは、5人目のあかちゃんが生まれなくても、少し太っていた。夏休みのおわりごろに、生まれるので、こんどのなつ休みは、はじめからおわりまでたのしくていそがしくなりそうです。 ぼくのうちの四人目の赤ちゃんは、きょ年、なくなりました。そのとき、ぼくはびょういんのまちあいしつで、いつも一人でまっていた。あゆみとげんやは、ずっと、かこ川にいた。こんどの赤ちゃんは、よりみちしないで、げんきに生まれてほしいです。 ぼくはこんどの赤ちゃんは、男の子がいいです。あゆみは女の子がいいといっています。げんやは、もう一かいおにいちゃんになるので、ゴキゲンです。もし男の子だったら、ぼくの子ぶんがもう一人ふえてうれしいです。 それから、ぼくはいもうとか、おとうとかかんがえています。名まえもいろいろかんがえています。たとえば「ゆうすけ」「こ太ろう」などです。 1年1くみで、あかちゃんの名まえをぼしゅうしてもいいですか。げん気そうな名まえをつけてください。」
アプコの誕生の前の年、私たちは生後3ヶ月に満たない女の赤ちゃんを病気で失っている。その臨終の前後のつらい日々の一部始終をオニイは父母の傍らでただただじっと見守っていた。だから、5人目の赤ちゃんが生まれると聞いたとき、オニイの気持ちの中には複雑なものがあったに違いない。 当時のオニイの担任の先生は、そんなオニイの複雑な心境を察して、「赤ちゃん命名キャンペーン」を繰り広げて、クラスのみんなが一緒に赤ちゃんの誕生を待ち望む空気を作ってくださった。 今でも、時々、オニイの同級生やそのおかあさんたちから「うちでもお宅の末っ子ちゃんの名前、考えたよ。」と声をかけていただく事がある。 家族や親類縁者だけでなく、たくさんの人の祝福を受けて生まれてきたアプコは、文字通り、我が家の朝の訪れだった。
アプコが選んだイチゴのケーキ、 アユコが器用に7つに切る。 最初の一切れをオニイが亡くなった赤ちゃんの遺影の前に供えてくれた。 わが道を行く、気ままなお姫様。 アプコの命の後ろには、たくさんの人の想いと願いがある。 そんな感傷などどこ吹く風と一番大きなイチゴの一切れを迷わず選ぶ末っ子姫の明日は明るい。
誕生日おめでとう、アプコ。 生まれてきてくれて、ありがとう。
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