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2003年08月22日(金) 3月に書いた没RPS

これは3月に書いた、初めての私のRPSの一部です。狩攻公受で、
なんとAUではなく撮影現場もの。恥ずかしくて目もあてられません。
しかも途中で放棄してます。今読むと、随分今の狩公発想と違います。
肝心なシーンに至ってませんが、お暇な方はどうぞ。
もしもリクが多少積もれば、続きを書くかもしれません。
あと、前に書いてYBAに放置っぱなしのmake me dirtyの続きは、
そのうち書く予定です。

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untitled

数メートルと離れていないところに、犬が横たわっている。リチャード・テ
イラーの犬らしい。ウェリントンのWETA社から、ピートと現場の様子を
偵察に来た主人の背後におとなしく座っている。賢そうな額と尖った鼻は、
まだハンターの顔をしていると思った。
気侭な仕事場には、犬も子供も、年寄りも、若者も、ベテランも新人も、
アメリカ人もイギリス人も、インド人も、タイ人もいる。
ひとつの集団から異なった訛りが聞こえてくる。様々な人種が
ミックスする故郷のマリックヴィルほどの多種多様さがあり、そんな
集まりの中では同国人同士で集まるのが人の常だが、ここではそれがない。
 デイヴィッドはもう10回も同じ台詞を繰り返していた。キャストそれぞれ
に配分された名前入りのディレクターチェアに座りながら、出番を待ってい
る。チェアの数はたぶん、今日が一番多いと思う。三部作の終盤を締めるこ
こ最近の撮影は念の入ったものとなり、ピートは同じシーンを繰り返し、回
を重ねる毎に少しずつ演出を変えて撮影している。
 大勢の共演者の中でも、デイヴィッドはミランダの後姿からは、ほとんど
目を離せずにいる。彼女は美しく逞しい騎馬の国の姫で、やがては彼の妻と
なる女性だ……もちろん映画の中で。そのことを少し残念に思っている自分
の、シドニーで待つケイトへの背信に、罪悪感を抱きもしていた。
 ミランダはそう、これまで出会った中でも最高に素敵な女性だ。誰もが演
技力の高さを評価しているし、聡明でユーモアがあり、役柄にぴったりの度
胸もある。唯一の欠点は、以前の共演者に恋人がいることだ。
 彼女はイアン・マッケランと話している。彼はこのプロジェクトに参加し
た優れた演技者たちの中で、誰からも一目おかれる熟練の俳優の一人であ
る。その上、自他共に認める同性愛者。
 彼を前にして、父親と娘ほどの年齢差にもかかわらず、ミランダの快活
さは曇っていない。むしろ金色の長い髪が夏の陽光を受けて輝き、彼女自身
が光を放射しているように見える。
 イアンと一緒にいる彼女の傍に辿り着けない自分の卑小さにうんざりす
る。正直なところ、このベテラン俳優を視野に入れるたびに、
四日前の嵐の晩、ひとりの共演者に言われた一言が、繰り返し思い出され
ていた。
 リチャードの犬が顔を上げ、彼の体を堂々と跨いだ男に挨拶すべく立ち上
がった。
「ヘイ、ジェリー、いい子か? いい子にしてないとトムに食われちまう
ぞ」
 デイヴィッドは憂鬱な気分で、そういって自分の方を見て笑った男を見た。
 四日前の晩は「トムから逃げるジェリーみたいだぜ」と言ったはずだ。そ
の時、トムはこの男で、ジェリーはデイヴィッド自身だった。
 カール・アーバンは衣装のままやってきて隣の自分のチェアに座った。な
ぜこの男のチェアが隣にあるのか、そのことを制作進行のサラにいつか説明
して貰わなければならない。
「さっきヴィゴとリヴのキスシーンの撮影があったな」
 カールは挨拶もなしに唐突に言った。今日は撮影開始から顔を合わすこと
がなかった。四日前までは、毎日ハイ、ハロー、ヘイ、そのいずれかの挨拶
があったはずだ。
「見たかい?」
「いいや、見なかった」
「すごく素敵だったよ。正直言って、ちょっとばかり嫉妬した」
 カールは伺うようにデイヴィッドを見た。見られているとわかってデイヴィッドは平静
を装った。
 この季節の変化を体験する羽目になった長い撮影期間で、ヴィゴ・モーテ
ンセンの謙虚な多才ぶりは多くの信奉者を獲得していた。ミランダも言って
いた、彼はルネッサンス・マンよ。男だって恋に落ちかねない。
 ルネッサンス・マンにとりわけ盲目的に恋しているのは新人のオーラン
ド・ブルームだ。オーランドは正直飛びぬけてハンサムだと思う。本人にす
ら相手の目を見て好意を伝えられるあたりに、デイヴィッドは世代の違いを感じて
いる。それは世代の違いではないかもしれないが、事実がどうかは知らない。
 だが、カールのヴィゴ信奉も、オーランドと似たようなものだ。
「どっちに嫉妬したか訊かないのか」
「訊いて欲しいのか」
 デイヴィッドは今日初めて自分から目を合わせた。そのことを意識していること
が、ひどく臆病に思えた。
「もちろん、ヴィゴさ。リヴの唇だぞ」
 思わぬフェイント。きっと彼をからかうために用意していたのだろう。こ
の愛嬌のある、誰もが「いいヤツ」と呼ぶ男は、時々信じ難いほど残酷なの
だ。
「一人で縮こまって座ってるのは、俺が言ったことを気にして?」
 そして、時々信じ難いほど優しい。
 デイヴィッドは自然と肩の力を抜いた。
「いいや」
「あんたはイエス、と言うよりノーと言うことの方が断然多い」
「いいや」
「あんたにイエス、と言わせるのは、レズビアンになるより難しい」
 デイヴィッドは笑った。負けだ。
「多少は考えていたよ」
 カールは気を取り直したように前屈みになった。
「気にしなくていい、俺はそんなに思慮深い方じゃない。その時の気分で喋
ってるんだ」
「気分次第で人を傷つけるのか」
 デイヴィッドは舌打ちしたい心境だった。傷つけるという言葉は二人の間に気ま
ずい沈黙を落した。
 顔以外を全部取り替えたような珍妙な恰好で、顔にまで深刻な表情を貼り
付けて座っているのはばかげたことだった。そのうえ、カールはこのチェア
から立ち上がる時、毎回必ず腰から吊るした撮影用の剣の鞘を引っ掛ける。
「イライジャが皆をベローへ連れてくんだ。俺も行くと言ったけど、今夜は
罪滅ぼしさせてくれ。でなけりゃ教会へ行って懺悔をするほかない」
 カールが言った。
「なにをするんだ」
「前はあんたの家へ押しかけたけど、今夜は俺の家に来るといいよ。そして
好きなだけ家具を壊したり壁に穴を開けたりしろよ」
 デイヴィッドは眉を吊り上げた。
「お前の恥ずかしい日記を読んでやる」
「それは勘弁」カールは手を広げた。「いや、日記なんてつけてない」
「わかってる」
「食事をおごるよ。ニュージーランドの名物料理といったらなんだと思う?」
 デイヴィッドは肩を竦めた。
「さあ、魚か?」
「カレーだ」
「嘘だな」
「俺の唯一の得意料理さ」
 カールがデイヴィッドの肩に手をおいて立ち上がろうとしたのと、ピートが彼の
名を呼んだのはほとんど同時だった。彼はチェアから離れようとし、鞘が手すりに引っかかった。
 デイヴィッドはそらまたやったと言いたげにその顔を見た。
「教えてくれよ」
「もう忠告するのはやめたんだ。お前はいくら言っても同じことを繰り返す
んだ。そういう天命なんだよ」
 カールはばつが悪そうに鞘を引き寄せて撮影に戻っていった。
 
 罪滅ぼしときくと、キリストの血と肉といわれるワインとパンを貰うため
に、神父の前に並んだ子供の頃を思い出す。大きくなってからも、彼は16歳
の春に一度だけ聖体を受けた。人並みに無垢な子供時代にどんな罪を犯して
いたのか知らないが、少なくともあの頃より幾分汚れた今は、教会へは行っ
ていない。
 だがこの四日間は、借りの住まいから2ブロックしか離れていない通りに立
つ教会へ足が向かいそうになる衝動を、デイヴィッドは抑えなければならなかっ
た。懺悔したいわけではい。ただ静謐な雰囲気をかもし出す、蝋燭がたくさ
ん灯る暗い部屋に座っていれば、もう少しましな気分でいられたろうと思っ
ただけだ。
「あんたは保守的なんだ」
 カールの言葉はこの四日間ずっと胸焼けのように残っていた。
 嵐の前夜、都市中心部のアイリッシュパブで、強風が窓を叩く音もかき消
す喧騒の中、ほろ酔のカールはいつまでも喋った。アルコールに憑かれた頭
では、意味のあることとないことの区別が出来なくなっていたらしい。撮影
中の出来事、他の共演者の印象、とりわけヴィゴへの敬意を込めた語りが大
半を占めた。途中でこのプロジェクトに参加した者同士、いつも一括りにさ
れる国の出身者同士、彼とデイヴィッドは親しかった、いや、比較的、親しかっ
た。カールはヴィゴと冗談を言い合っている時に二人で大声で笑うが、
デイヴィッドといる時は控えめに笑うだけだ。デイヴィッドは
ミランダを笑わせるために苦心してジョークを言うが、カール相手では
その努力をほとんどしない。

 それでも幾度となく集団で、あるいはふたりでふらりと夜の街へ出かけて
は、カールの酩酊を予測して酒にほとんど手をつけないデイヴィッドの運転で、一
緒に帰った。なぜなら二人に与えられたワンベッドルームの借家は、目と鼻
の先だったのだ。
 そして四日前、心地く酔ったカールを家の前でドロップしようと停車した
時、はじめて寄って行かないかとお誘いがあった。
 悪くないとデイヴィッドは思った。それがとことん悪い方向へ向かうことなど予
測もせずに。


コメントもこちらから。私が旅の途中で撮っただいたいが欧米の風景写真が表示されます(地味に交換してます)




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